★★★★☆
あらすじ
家賃を年金で賄えず部屋を追い出されそうになった元役人の老人は、 金策に奔走する。
イタリア映画。87分。
感想
家賃を払えず追い詰められる老人。遊んで暮らした結果ではなく、真面目に役人として勤め上げたのにあてにしていた年金が少なかったから、というのが切ない。今の日本なら年金なんか信じていたのが悪い、自己責任、と言われてしまうのかもしれないが。
そして、これが普通なのかもしれないが、老人の下宿先は色々酷い。彼が部屋にいてもいなくてもいろんな人が出入りするし、少し入院したらその間に勝手に改装工事を行ってしまう。プライバシーなどあったものじゃなく、心が休まりそうもない。
時計を売り本を売り、知人を訪ね歩いて金策に走る主人公。知人たちの素っ気ない態度が悲しい。彼らもそんな余裕はないということなのか、ただそんな人間とは関わりあいたくないということか。万策尽きて物乞いをしようかとまで追いつめられるシーンは泣けてくる。
そんなただただつらいシーンが続く映画の中で、主人公の住む下宿の使用人の少女が一服の清涼剤となっている。女主人の目を盗んで老人の世話をして、彼が入院すれば見舞いに駆けつける。なんていい子だ、と温かな気持ちになる。ただそんな彼女も父親が分からぬ子を妊娠しており、前途には暗雲が漂っている。老人も少女も善人で、互いに思いやっているのに互いを助けることができない。
そしてついにはあきらめて部屋を出ていくことにした主人公。自分を追い出そうとしていた女主人にあんなに腹を立てていたのに、何も言わずひっそりと出ていこうとする所がいかにも善人だ。彼のさびしそうな背中とあきらめのにじんだ顔が、これから何をしようとしているのかを何となく暗示しているが、でももうこれ以上何もなす術がない。
そしてここから、彼のもう一つの心の支えだった飼い犬が八面六臂の大活躍を見せる。置き去りにしようとする主人公を追い、そして助ける。最後、彼が主人公を導く先に何があるのかと期待してしまったが、それはさすがに期待しすぎだった。
本当は主人公と犬の絆をもっと強調して描いた方がよく伝わったと思うのだが、それだといかにもな、ただの動物映画になってしまう。それを避けるために使用人の純粋な少女を登場させ、映画に深みを持たせようとしたのだろう。
スタッフ/キャスト
監督/製作 ヴィットリオ・デ・シーカ
出演 カロル・バッティスティ/マリア・ピア・カジリオ/リナ・ジェンナーリ
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