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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「下町の太陽」 1963

下町の太陽 

★★★☆☆

 

あらすじ

  家族と暮らす下町を出て、郊外の団地に住むことを夢見る年頃の女。倍賞千恵子のデビュー曲「下町の太陽」をモチーフとした歌謡映画。

 

感想

  団地に住むのが夢、というのが時代を感じるが、多くの人がつまりは団地以下の環境で暮らしていたということで、日本が貧しかったことが良く分かる。プライバシーのないような住環境で、年寄りたちはすることもなく日がな一日、外で日向ぼっこをして過ごすしかない。どこか落語に出てくるような貧乏長屋を思わせる暮らしぶり。

 

 ただ不思議と皆の表情が明るいのが印象的だ。未来に明るい希望を感じている表情。こんな表情は、今だと世界の新興国で見ることが出来るのかもしれない。少なくとも今の日本でこんな雰囲気を感じることは稀だ。

 

 

 映画はそんな希望に満ちた時代の若い男女の恋愛模様が描かれるのかと思っていたら、もっと深みのある内容だった。貧しさから抜け出して豊かになることが幸福だと信じている人々の中で、違和感を感じている倍賞千恵子演じる主人公。人を出し抜いてでもなんとか正社員となって彼女と結婚しようと必死な恋人や、幸せな結婚生活を送っているはずの友人の涙に、豊かになること以上にもっと大事なものがあることに気づいていく。

 

 恋人の女性観や世間の女性らしさを求める声に異を唱える主人公は、フェミニズム的側面を強調しているように感じるが、それよりももっと大きな、人間の尊厳といったものを訴えていると捉えた方が適切かもしれない。当然女性もだが、すべての人たちが自分らしく生きるべきだというメッセージが感じられた。

 

 そういうわけで恋愛がメインではない映画だが、ラスト近くの電車の中で告白された主人公が、軽く微笑み嬉しくて顔を隠すだけという控えめなクライマックスが逆に良かった。彼女の驚きと喜びが伝わってくる。

 

 悪くない映画だったが、突然サスペンス調の大げさな音楽が流れるのが気になった。それからあまり関係ないのだが、可憐な倍賞千恵子が、スポーツをすると突然メジャーリーガーばりの個性的なフォームで躍動するのが面白かった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

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出演 倍賞千恵子/勝呂誉/早川保/待田京介/青山ミチ/石川進/藤原釜足/東野英治郎/加藤嘉/左卜全/菅井きん/穂積隆信/名古屋章

 

音楽 池田正義

 

下町の太陽

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  • 倍賞千恵子
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下町の太陽 - Wikipedia

 

 

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