★★☆☆☆
あらすじ
貧乏長屋に住む人々の前にひとりの荒くれ者がやって来る。ハナ肇の喜劇「一発」シリーズの最終作。
感想
序盤は死者を扱った不謹慎、悪趣味ネタを連発。この頃はそれを見て笑えるほど、死が人々の身近にあったという事だろう。戦争体験のある長屋のおじさんたちが陸・海・空軍の埋葬方法の違いをグロく語ったり、近所の人が急死しても特に動揺することもなくそんな事もあるよねとのんきな顔をしている。
そしてそんな人々の前に、ハナ肇演じる主人公の荒くれ者が現れる。この男がガサツで乱暴者で図々しく、暴れるわ金は巻き上げるわで酷い。でも本当は心優しい、というエクスキューズがいつもならあるのだが、今回はそれもなくただただ酷いだけ。正直、彼の傍若無人ぶりを見ていたら「コメディ」ではなく背筋の凍るような「ホラー」にしか思えなかった。これもまた、当時はこういう困った人があちこちにいたという事なのだろうか。そういう人たちの中では可愛げのあるほう、ということなのか。時代のギャップを痛烈に感じてしまってほとんど笑えない。
そんな酷い主人公にオロオロし、あまりの弱気な態度を見せる住人達にイライラしてしまうのだが、そんな中でひとり凛とした態度を見せる子持ちの若い女を演じる倍賞千恵子が良かった。この頃の彼女は清純な役を演じることが多い印象だが、この映画ではやさぐれたヤンキーマインドも見せつけていて、いかにもそういう環境で育った女といった感じで新鮮だった。笑うというよりも引いてしまうことが多い映画だったが、彼女が生首に驚きながらも、それでもなぜかしっかりとその断面を確認するシーンは面白かった。
あまりに主人公に良いところがないので、これは途中で改心するパターンかと思ったのだがそんな事はなく、最後まで同じ調子のまま。彼はゴジラみたいなもので、それに恐れおののく人々の反応を見て楽しむ映画だったのかもしれない。ただ終盤からは不思議な展開をみせていて、コメディらしくない雰囲気が漂っている。もしかしたら葬式のシーン以後は現実ではなく、夢や幻の中の話という事だったのかもしれないなと思ったりした。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 森崎東
出演 ハナ肇/倍賞千恵子/佐山俊二/谷啓/佐藤蛾次郎/左卜全/谷よしの/犬塚弘
関連する作品
前作 ハナ肇の喜劇「一発」シリーズの第2作目