★★★☆☆
内容
国民的映画「男はつらいよ」の50年を振り返る。
感想
山田洋次が監督になるまでの半生が書かれていて、戦前戦中は満州で運転手やお手伝いさんがいるような裕福な暮らしをし、戦後は一転して日本で貧しく苦しい生活を送ったというのは知らなかった。学者先生や日本画の大家、お殿様といった偉いとされている人たちに寅さんが気さくに話しかけてすぐに仲良くなってしまうエピソードは、シリーズでよく見られる個人的に好きなシーンなのだが、これは監督のそういった生い立ちが影響しているのかもしれない。
金持ちというだけで皆が勝手に遠慮して距離を取るので寂しい思いをしたり、貧しいからというだけで人々に顧みられず悲しい思いをしたりといった両方の立場を経験したことで、人間には立場や身分なんてものは無く、誰とでも対等に接するべきだという信念が生まれたのかもしれない。
そして、シリーズで個人的に少し苦手ないわゆる尾籠な話、糞尿譚が良く出てくるのも、監督の貧しい時の体験から来ているという事が良く分かった。貧しく苦しい時でも笑いがあれば何とかやっていける。そしてそんなときに彼らが笑いの材料にするのが下ネタだ。庶民の笑いには不可欠なネタという考えから来ている。確かに全世界で通用するネタだろう。
寅さんのプラトニックな女性観もどう判断するべきか迷うところではあるが、著者が言うように、世知辛い世の中に現れた一人の高僧、みたいに捉えると納得できる部分はある。人々が悩んだり争ったりしているところに現れて、新たな視点を与えたり、忘れてかけていた原点を思い出させる。もはや普通の人とは違う地平線に立っている人だ。そんな人が女性と常に一定の距離を保つというのはあり得るかもしれない。
読んでいると、寅次郎は渥美清のキャラクターあってのものではあるが、やはり監督である山田洋次の分身なのだなと強く感じるようになった。マンネリだなんだと時に批判されながらも、それでも常に一定のレベルを保って作り続けられたのは本当に驚異としか言いようがない。
興味深く面白い本ではあるが、タイトルから勝手に予想したような、第一作目から映画や制作現場で起きた出来事や変化を順に辿っていく、というような内容ではなかった。著者はほぼ山田洋次と同年代で、映画の制作現場にも出入りしていたようなので、監督や渥美清だけでなく、他の出演者や現場の人たちの様子や声なども聞きたかった。
著者
都築政昭
登場する作品
「意地のすじがね」 北島三郎
「怪談宋公館」 火野葦平
「世界の映画作家14」 キネマ旬報社
寅さん、ありがとう!!「それを言っちゃあ、おしまいよ!!」―渥美清よ永遠に
*「桜の園」
「少年講談全集」 大日本雄辯會講談社編
「可愛い女(かわいい女)」
「白蘭の歌」
「路傍の石」 監督 田坂具隆
「落語全集」 大日本雄辯會講談社
マッチ売りの少女 【日本語/英語版】 きいろいとり文庫bookcites.hatenadiary.com
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