★★☆☆☆
あらすじ
認知症がすすんだ母親と、わだかまりを抱えながらもそれを心配する息子。104分。
感想
認知症が進行する母親とそれを心配する息子の物語だ。過去のある出来事がきっかけで母親は息子に対して罪の意識を感じており、息子は母親に対してわだかまりを抱えている。そんな二人の微妙な関係が築かれていく。
ただ、どちらの何を描きたいのかが全く見えてこない。最初は菅田将暉演じる息子の目線で描かれるのかと思っていたのに、途中から母親目線の物語になって戸惑ってしまった。
両者の視点から交互に描くということなのだろうが、認知症が進んでいることに対する母親自身の気持ちも、それに対する息子の気持ちもしっかりと描かれていない。踏み込みが足らず、どちらも中途半端だ。特に母親の認知症の描き方がファンタジーぽくて気になる。
それからストーリーも分かりづらい。これは敢えて説明を最小限にとどめ、余白を作ることで物語に厚みを出そうと意図的にやっているのだろう。だがその削ぎ落し方がマズくて、しばらく息子は不倫相手の子だと勘違いしてしまっていた。
おかげで母子の過去の全容が判明した時には、違うのか…では誰の子だろう?などと本筋ではないところが気になって、肝心の息子を置き去りにした件に関してはだいぶ後になってからそれは酷いなと思う始末だった。時間差が出来てうまく流れに乗れない。
そもそもストーリー自体も腑に落ちない部分が多く、単身赴任先に妻が訪ねてくることなんてよくあるのに愛人と同棲するかなとか、メジャーでも行ったこともない花火大会に執拗に行きたいと主張するわけないよなとか、色々引っ掛かってしまう。
ギクシャクとした展開で、各エピソードが効果的に積み重なっていかない。おかげでおそらくクライマックスのはずの、花火大会後の水辺のシーンでは、一ミリも心を動かされなかった。その後の記憶に関するあれこれやラストシーンも取ってつけたようなものばかりで興ざめしてしまう。
凝った編集で認知症の記憶の曖昧さを表現してみたり、映像がビックリするほど美しかったりと良かった点もあり、いい映画風にはなっている。イライラして腹立たしくなるというよりも、やりたいことは分かるけど…と苦笑してしまう映画だ。「面白い味」的な意味合いで「意欲作」と評することは出来るかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 川村元気
原作 百花 (文春文庫)
出演 菅田将暉/原田美枝子/長澤まさみ/北村有起哉/岡山天音/河合優実/長塚圭史/板谷由夏/神野三鈴/永瀬正敏
撮影 今村圭佑