★★★☆☆
あらすじ
殺人犯として逮捕された無実の兄の弁護を依頼するために、熊本から東京の高名な弁護士の元を訪れた妹。
感想
高名な弁護士に依頼をするために東京に向かう倍賞千恵子演じる主人公。しかし、そんな弁護士を雇うにはお金がかかることぐらい分かりそうなものなのに、金もなくただ善意にすがろうとするのは、いくら何でも身勝手すぎないかと思ってしまった。
彼女の押しつけがましい言い草には辟易したが、もしかしたら貧しき者にも主張する権利はあるという考え方なのかもしれないなと思い直した。お金がないからと何もかもあきらめるのではなく、自らの権利や世の中の欺瞞を訴えていくことは大事な事なのかもしれない。
ただ主人公はもっと他にやりようはあったはずだ。著名な弁護士ひとりだけではなく何人かをリストアップしておくとか、弁護士のアドバイスに従って地元の有能な弁護士を探すとか、出来る事は他にもまだいっぱいあった。きっと一人くらいは善意で引き受けてくれる奇特な人が見つかったはずだ。少なくともやる気のなさそうな国選弁護士で戦うよりも何倍もましだったはず。
一方のただ依頼を断っただけなのに恨みを持たれてしまった弁護士はいい迷惑だ。しかも彼はいかにもな悪徳弁護士ではなく、遠方からわざわざ来てくれたのだからと、断るにしても門前払いではなく面会して直接伝えるという誠実さを持っている。それなのに、彼の周辺でたまたま起きた事件をきっかけに主人公に復讐されることになる。
正直、主人公の単なる逆恨みじゃないかと思ってしまうのだが、実際にそういうお門違いの恨みを持つ人はいそうで、リアルといえばリアルなのかもしれない。そんなヤバい主人公を倍賞千恵子が上手く演じている。一度決めたら一歩も引かない頑固で気の強そうな性格。夜の店で会うと媚態を見せるのに、外で会うと冷たい態度。一途なものを感じながらも、何を考えているのかよく分からない。若い頃の清純で可憐な彼女のイメージとは全然違う姿を見せている。
そして主人公に翻弄される弁護士。彼は彼であとで事件を調べ、自分が弁護をすれば無実にすることができたと確信してしまったことが、彼女に対する引け目となっていたのかもしれない。ただ基本的には彼女にお願いをする以外に出来る事はない立場にいたので、どうしようもなかったと言えばどうしようもなかった。最後の出来事は、無事解決しそうだという安堵感と酒を飲んだという気の緩みで分からなくもないが、それでもちょっとどうなの?と思ってしまうが。
最初は冤罪をめぐる法廷ものかと思っていたので、その後の主人公の理不尽な行動に戸惑わさせられた。ただそれは現実世界では実際にあり得る事だと無理やり納得できなくはない。だが、主人公が偶然、復讐にうってつけの事件に遭遇するという出来過ぎの展開には引っかかりを感じる。いくらなんでもそんな都合の良い事は起きないだろうと思ってしまった。
観ている間、ずっと腹の中でモヤモヤしたものが蠢き続けているような映画だ。まさしくそれこそがタイトルの「霧」の意味しているものなのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督
脚本 橋本忍
原作 霧の旗
出演 倍賞千恵子/滝沢修/露口茂/新珠三千代/川津祐介/市原悦子/穂積隆信/三崎千恵子/井川比佐志/金子信雄*
*ノンクレジット
撮影 高羽哲夫
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