★★★☆☆
あらすじ
ロシアの地方都市で、富豪の地主の息子を中心に巻き起こった政治的な事件。
感想
ロシアに蔓延していた新しい様々な思想。主人公の親の世代の新しい思想を、次の世代の新しい思想が追い出そうとする。まさにロシアが変革の時であることを感じさせる。
彼は、ある力強い思想に打たれると、たちまちその思想に圧倒されて、ある場合には永遠にその影響を抜け出せなくなる、そういった類いの純粋なロシア人の一人であった。こういう連中は、思想を自分なりに消化するということがけっしてできず、ただやみくもにそれをそれを信じこんでしまうので、その後の全人生は、彼らの上にのしかかって、もう半分は彼らを押しひしいでしまった大石の下で、気息奄々と最後のあがきをつづけるといった態のものになるのである。
上巻 p53
しかし実際の所、新しい思想を理解しているのはほんの一部だけで、それ以外はただただ時代の熱気に浮かれているだけだったりする。本来であれば困った立場に追いやられるはずの上流階級の人間ですら、分かったようなふりをして新しい思想に迎合しようとしているのは、滑稽ですらある。
なるほど、雄弁をふるってリベラルにおしゃべりするのが快適であることは、ぼくも認めます。一方、行動がいささか大儀である・・・・・・いや、どうもぼくは話下手なので。
下巻 p131
そしてそんな思想を理解できている人たちも、細かい部分では皆と微妙に意見が違う。そのため、皆が一丸となってその思想を具体的な行動に移すことはなかなかできない。しかし、そんなときに力を持つのがとにかく行動する人物だ。自らの信念に基づき行動することで既成事実を作り、なかなかまとまらない意見を、自らに有利な方向へ導いていく。
ただ流されているだけの人間に対しては、どんな組織でも通用するアメとムチを用いて、脅したり、すかしたりしながら、がんじがらめにして支配していく。一方、行動力がない人間に対しては、行動で示して後戻りできない状況を作り、巻き込んでいく。このようにして、思想集団のリーダーは生まれる。
まるで悪霊に取り憑かれたかのように新しい思想がロシアを覆ったのと同様に、破滅的な精神に取り憑かれてしまったのが主人公だ。自らを追い込むような行動をやめることができない。
ロシアを覆った思想が先鋭化した集団に流れ込み、それが自滅したことでロシアは落ち着きを取り戻したが、主人公の中の悪霊はどこにも追い出すことができなかった。苦悩しながら、希望もないわけではなかったが、結局は力尽きてしまった。
時代や当時の状況のせいだと思うが、思想的なこと、恋愛的なことがあまり明確に書かれていないので、話を把握するのがなかなか難しかった。当時のロシアの習慣や風俗、様子などをこちらが理解していないのも大きな原因だろう。ただ次々と人が死んでいき、どんよりと重苦しい気分が蔓延していく終盤は、かなりの読み応えがあった。
とはいえ、一回読んだくらいでは十分に理解できたとはとても言えない濃い内容の長編小説だった。また何年か経ったら、再読してみたいと思う。
著者
登場する作品
「不幸者アントン」 ドミトリー・グリゴローヴィチ
「知識欲旺盛なる男」 イヴァン・クルィロフ
「笑う男」 ヴィクトル・ユーゴー
「わが愛するアウグスチン」 ドイツ俗謡
「ドゥームイ」 コンドラチイ・ルイレーエフ
「ポーリンカ・サックス」 ドルジーニン
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映画化作品
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