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「わが母なるロージー」 2011年

わが母なるロージー (文春文庫 ル 6-5)

★★★★☆

 

あらすじ

 爆破事件の犯人を名乗る男が自首し、仕掛けた残り6つの爆弾の情報と引き換えにある要求をする。

 

 カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの番外編。フランス文学。

 

感想

 シリーズの主人公である警部が、6つの爆弾を仕掛け、いくつかの要求をする犯人と対峙する。犯人はすでに爆破事件を起こした上で自首しているので信憑性は極めて高く、いたずらだと切って捨てるわけにはいかない。しかもどこに爆弾があるか分からないので避難も出来ず、かといって大々的に注意喚起すればパニックが起きるだけだ。迅速に爆弾を見つけて処理する必要があり、否が応でも緊張感が高まる巧みな設定だ。

 

 犯人に指名されて対応することになった主人公は、なんとか爆弾の場所を聞き出そうとする。それと同時に主人公のバックグラウンドの調査も進めている。だがどちらからもめぼしい情報は得られず、刻一刻と最初の爆弾の爆破予告時間が迫ってくる。じりじりと過ぎる時間に焦らされる展開だ。

 

 

 結局、具体的な手がかりのないままにその時間を迎えてしまうのだが、当局の取った対応策が「何もしない」だったのには震える。国中を大混乱に陥れるわけにはいかないし、テロに屈するわけにもいかない。もし本当に爆破が起きて大量の死者が出たら、知らなかったふりをして犯人を非難するつもりなのだろう。最善を尽くさず国民を見殺しにするのは残酷だが、体面を保つために国家がやりそうなことだ。

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 一つ目の爆破予告時間が過ぎれば、また次の爆破に備えて動き出さなければならない。一つ目が爆発しなかったからといって二つ目も爆発しないとは限らない。疑心暗鬼のプレッシャーの中で捜査は続く。

 

 やがて犯人の素性、そして母親との奇妙な関係が明らかになっていく。それを知ると、彼がなぜ母親の釈放を求めているのかが、逆によく分からなくなった。彼がされた仕打ちを考えると、彼女を助けようとしているのではなく、その反対のことをしようとしているのではないかと疑念が生まれた。

 

 ラストは犯人の要求をのむようなかたちを取りながら、解決に向かう。それなら最初からそうすればよかったのにと思わなくもないが、嘘でも犯人に屈したくなかったのだろう。そして最後の手段として取ったこの方策も、犯人の思惑には敵わなかった。

 

 予想を裏切る犯人の行動に、そうするのか…と天を仰いでしまう。親子関係は厄介だと痛感する。このシリーズは主人公の思い通りにならない結末を迎えがちだが、毎回深い余韻に浸れる。番外編ということでページ数が少なく、さっくりと読めてしまうが内容は濃厚だ。満足できる一冊だった。

 

著者

ピエール・ルメートル

 

 

 

関連する作品

前作 カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ三部作の第3作目

 

 

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