「42 〜世界を変えた男〜」　2013

★★★☆☆

あらすじ

　アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンのメジャー１年目を描く。事実を基にした映画。伝記映画。

作者:近藤隆夫
汐文社

感想

　主人公・ジャッキー・ロビンソンが黒人初のメジャーリーガーとなったのは、単純に野球の能力だけでなく、人々の差別や偏見に上手く対処できるどうかも見られていたというのは意外だった。だが、彼がどう振る舞うかで世間の受け入れ方は変わってくるはずなので、しっかりと考えられていたのだなと感心した。

　ただルーキー１年目で普通に結果を残していくだけでも大変なのに、そこで人格まで求められていたなんて、主人公はとてつもないハンデを背負っていたことになる。とんでもなく不公平だ。これがまさに差別や偏見が許されない理由でもある。

　主人公は、ハリソン・フォード演じる経営者の後ろ盾のみでメジャー・リーガーとなる。敵チームや観客だけでなく、チームメートにすら黒人というだけで反発を買い、孤立無援の状態でプレーしなければならなかったのは、見ているだけでも辛かった。

　だが、まずチームメートから始まり、やがては観客へと、どんどんと彼が受け入れられていく様子は胸が熱くなった。彼一人の存在が、黒人社会に大きな希望を与えているのが分かるのもいいし、人目を憚りながらも彼を応援している白人がいることが分かるのもいい。

　差別や偏見はこんな風に解消していくものなのだろう。結局、それらは人間の恐怖心から生まれ、拒否したり攻撃したりし続けることでどんどんと強化されていってしまう。だが一旦それを受け入れてしまえば、少しずつそれらは解消されていく。

　スマホだって出始めの時は、皆なんだかんだと理由を付けてはなかなか手を出さなかったのに、今や老若男女が片時も手放せないものになっている。ビビっているのを誤魔化すために、声高にヘイトをまき散らして勇ましさをアピールするよりも、恐怖心を克服してそれを受け入れられる、本当の勇ましさを持ちたいものだ。

　経営者は、どんなトラブルが起ころうが主人公を後押しし続ける。その姿には頭が下がる思いだが、でもこの情熱はなんなのだろうと思ってしまうところもある。何かと聖書の話を引き合いに出していたので、宗教的な信念に基づいているのだろうか。一応は映画の中で理由を述べてはいるが、身の危険を感じるような脅迫をされているのに、それでもやり抜こうとするには何らかの信念がなければ難しいだろう。

　彼の指示を受けて現場を仕切る監督がいいキャラクターで面白かった。だが、肝心なときにいなくなってしまったのは残念だった。ただこれは実際にそうだったのだから仕方がない。

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　差別や偏見が渦巻く中で、平常心を保ってプレーし続ける主人公の姿には胸が打たれる。だが、過酷な環境の中で挫けてしまわないように、誰の助けも期待せず、甘えることもしてこなかったという彼の告白は切なかった。そうまでしないと自尊心を保って生き抜いてこれなかった。世話役として経営者が派遣した黒人記者のサポートに、主人公がどう反応していいのか分からず困惑してしまうシーンが印象的だった。

　主人公の人となりを知るにはいい映画だったが、世間の彼に対する反応をもうちょっとしっかり知りたかった。彼のメジャーリーグ入りは論争を呼んだのか、意外とすんなりと事が運んだのか、どれくらいのインパクトがあったのかがいまいち良く分からない。それにスポーツドラマ的な盛り上がりがもっとあっても良かったような気がする。どこか物足りなさを感じてしまう映画だった。