★★★★☆
あらすじ
芸術家を夢見るユダヤ系の少年は、学校では浮いた存在だったが、同じく問題児扱いされていた黒人の少年と仲良くなる。115分。
感想
主人公は芸術家を夢見る少年だ。どこかフワフワとしていて、考えの甘さも見られる幼い性格をしている。学校でもうまく馴染めずにいたが、同じく問題児扱いされていた黒人少年と仲良くなる。だが彼と行動を共にすることで、世の中の厳しい現実を知ることにもなった。
舞台は1980年のニューヨークで、差別が色濃く残っていた時代だ。主人公は、友人が自分とは違う偏見の目で見られていることに戸惑う。そんな彼のメンター的存在となるのが、アンソニー・ホプキンス演じる祖父だ。ユダヤ系として差別され、苦労してきた一族の歴史を語って聞かせる。
彼が主人公に、差別的発言をする同級生に対して毅然とした態度・行動を取れ、と言って聞かせる場面には胸が熱くなった。こうやって一族の歴史を踏まえて人生訓を語って聞かせることは大事だなと痛感させられた。その場となっている親族が会食で集うテーブルは、面倒くさそうに見えて実は貴重な機会であることがよく分かる。
日本人も海外に出れば差別や偏見にさらされることの多い立場だが、そういう時にはどうすればいいのかは誰も教えてくれない。個人の力で何とかしなければいけないのはしんどい。やはり過去に先人はどうしてきたのか、積み上げてきた歴史を知っていると心強いだろう。歴史や知見を語り継いでいくことの重要さを感じる。現状だとただ戸惑い、曖昧な笑顔でやり過ごすくらいしかできないかもしれない。
友人と学内で起こした問題行動が原因で、主人公は転校することになる。友人を切り捨てて成長していく物語なのかと悲しい気持ちになったが、その後も関わりを持とうとしたことに安心した。
だがそれでも最終的には切り捨てることになってしまう。自分だけ助かった幸運に感謝しろと言った父親の言葉は強く印象に残った。この件は、ズルい、と簡単に切り捨てることも出来る。だが一族の苦難の歴史には、本人の力ではどうすることも出来ない状況や、運に左右されるような出来事もあったはずだ。誰かが犠牲になったこともあるかもしれない。それでも必死で生き抜いてきた一族の、歴史の重みを感じる言葉だった。
ただこれも、社会的に厳しい状況に置かれている人間が言うなら納得も出来るが、恵まれた環境にいる人間が使うと意味が違ってくる。逮捕されそうだったけど懇意にしていた首相の助力でなんとか免れたよ、と言われたら腹が立つ。その境界線がどこにあるのかを判断するのは難しいが。
映画のタイトルは劇中でも使われているザ・クラッシュの「Armagideon Time」から来ているようだが、パンクな精神を感じられる結末だ。そのまま何も考えずにエリートコースに乗っていれば楽だったのに、これからの主人公は苦労しそうだ。一族の想いと自身の感情を抱えて生きていく。
トランプ次期大統領の親族が登場したり、レーガン大統領の誕生に触れられていたりと、この時代と現代がよく似ていると警鐘を鳴らしているようにも感じられる映画でもある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ジェームズ・グレイ
出演 アン・ハサウェイ/ジェレミー・ストロング/バンクス・レペタ/ジョン・ディール/ジェシカ・チャステイン
音楽 クリストファー・スペルマン
アルマゲドン・タイム ある日々の肖像 - Wikipedia