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「ブラック・フォン」 2022

ブラック・フォン(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 少年に対する誘拐事件が相次ぐ街で、ターゲットとなり犯人に監禁されてしまった少年。

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感想

 序盤は主人公の陰気な家庭と殺伐とした地域の様子が描かれていく。家では片親の父親に怯えて暮らし、外では同級生たちの暴力沙汰が絶えない。すでに地域に不穏な空気が漂っていて、連続誘拐事件が起きるのも、それが未解決のままなのもなんとなく納得してしまうような状況だ。

 

 そんな中で主人公も誘拐犯にさらわれて監禁されてしまう。地域の少年たちは当然みな警戒していたはずなので、まさか主人公がそんなにあっさりと被害に遭ってしまうとは意外だった。だが連続事件の被害者なんてそんなものなのかもしれない。いつも警戒をマックスに保つことはできないし、心のどこかでは、自分が当事者になるわけがないと高をくくっている部分もあるのだろう。

 

 

 主人公を監禁した犯人だったが、何をするわけでもなく、ただ放置するだけだったのは謎だった。何をしたかったのかは分からないが、とりあえずはいつでもいけるように確保しておいて、後はその気分になったら実行するつもりだったということなのだろうか。ちょっとモヤモヤしてしまうが、そこは普通じゃない犯人のやることなので、理解しようとする方が間違っているのかもしれない。

 

 主人公が監禁された部屋にはなぜか黒電話があり、使えなくなっているはずなのになぜか電話がかかってくる。かけてくるのは以前に誘拐され、おそらくは殺されているはずの少年たちだ。急に不思議な展開となるが、主人公の妹が予知夢などの特殊能力を母親から受け継いでいるので、主人公にもそのような力があったということなのだろう。

 

 ところでこの妹はなかなか激しいキャラクターだった。父親に折檻されている途中でも反抗的な態度を崩さず、警官には暴言を吐き悪態をつく。兄が同級生に暴行されていたら、人を殺せそうなサイズの石で相手の頭を殴りつける。何をしでかすか分からない危険な雰囲気があるが、この気性の激しさが彼女の霊性を暗示しているようでもある。

 

 主人公は過去の被害者たちからアドバイスを受け、様々な脱出方法を試みる。だがどれも上手くいかず、最期の時が刻一刻と迫ってくる。そんな彼に与えらえれた最後のアドバイスは、自分の拳で敵を倒せ、というものだった。

 

 なんだ色々やった挙句に、結局最後は暴力かよと脱力してしまったのだが、単なる暴力ではなく、これまでの失敗を活かしたものになっていた。見事な連携ぶりに、そう来るのかと感心してしまった。

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 ただ、これは過去の失敗をもうちょっと工夫したら成功した、というものではなく、たまたま組み合わせたら上手くいったというものだ。それが少し引っ掛かったが、過去の被害者たちの試みは無駄ではなかったということなのだろう。彼らがただ座して死を待つのではなく、それぞれが必死に生きようとしたからこそ主人公が助かったと考えれば、彼らにも救いがある。

 

 犯人がなぜ使えない黒電話を撤去せず放置したままだったのかとか、案外監視が緩くて主人公がやりたい放題過ぎだし、それに気付かなさ過ぎだろうとか、気になる点がないわけではない。だが、過去の被害者たちと力を合わせて脱出するというアイデアは面白かった。

 

 しかも被害者たちの中には、いい奴や友人だけでなく、仲の悪かった奴も嫌な奴もいたというのがいい。そんな彼らがこれまでの関係を忘れ、自らの無念を代わりに果たしてもらおうと協力を惜しまなかった。正直、あまり期待していなかったのだが、思いのほか面白い映画で楽しめた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 スコット・デリクソン

 

原作 ブラック・フォン (ハーパーBOOKS)

 

製作総指揮 ジョー・ヒル/ライアン・トゥレク/クリストファー・H・ワーナー

 

出演 イーサン・ホーク/メイソン・テムズ/マデリーン・マックグロウ/ジェレミー・デイヴィス/ジェームズ・ランソン

 

ブラック・フォン(字幕版)

ブラック・フォン - Wikipedia

 

 

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