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「ファンシイダンス」 1989

ファンシイダンス

★★★★☆

 

あらすじ

 ロックバンドでボーカルをする青年は、実家の寺を継ぐために恋人を残し、禅寺での一年間の修行に向かう。

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感想

 今どきの若者が禅寺で修行する物語だ。序盤は全く知らなかった修行の様子が詳しく紹介されており興味深い。それと同時に、古参たちの目を盗み、規律を破って羽目を外そうと躍起になる主人公らの姿が面白おかしく描かれる。甘いものに飢え、盗んだ羊羹を一棹、トイレで一気食いするシーンは笑った。

 

 ただ、怖い古参や高僧たちも、裏では酒を飲んだり、寿司を食べたり、女と会ったりと規律を破っている。互いに騙し合いをしているようなものだが、常に厳格で高潔でいることは難しい。だからオンとオフの切り替えがちゃんと出来ればそれでいいのかもしれない。案外と世の中にはそれすら出来ない人が多いので、それを身につけるための修行だと考えればいいのだろう。

 

 厳しい修行に打ち込む主人公らの様子に感心しながらも、でもこれって何の生産性もないんだよなと思ったりもした。自分を厳しく律する精神修養をただしているだけで、何も産みだしてはいない。だがそんな彼らをありがたがる人がたくさんいて、そんな人たちが法要などを依頼するから生計は成り立っている。そう考えるとある意味でニートも貴い存在なのかもしれない。

 

 

 法要などを依頼する人にとって、彼らが日々精進していることは信用の担保となっている。システムとしては、派手な生活を見せることで注目を集め、大金を稼ぐラッパーや謎の有名人と同じだ。宗教はそのスタイルをいち早く確立していたわけで、さすが何百年も続くだけのことはある。

 

  終盤は真摯に修行に打ち込み始めた主人公の姿が描かれるようになる。仏教における作法の美しさを熱く語る主人公が印象的だったが、人はどんな環境でも楽しみを見つけて生きていくものなのかもしれない。それでも多くの人が修業期間を終えても山寺に残ることを選択するのには驚いてしまうが。なんだかんだで成長し、心境に変化が起きるのだろう。

 

 単に修行生活を美化してしまうのではなく、そこに潜む欺瞞を浮かび上がらせるような批判的なまなざしも感じられる演出で好感が持てる。十字を切ってふざけて見たり、クライマックスとなる法戦式での恋人との予想外のやり取りなど、結構踏み込んだこともしている印象だ。逆に仏教の懐の深さも伝わってくる。

 

 集団生活を描く軍隊ものや刑務所ものと相通じるものがある映画だ。知らなかった世界を垣間見ることができる面白さがある。動いているまだ太る前の彦摩呂が見られるのも見どころだ。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 周防正行

 

原作 ファンシイダンス 1 (花とゆめコミックススペシャル)

 

出演 本木雅弘/鈴木保奈美/甲田益也子/竹中直人/田口浩正/大沢健/彦摩呂/徳井優/ジーコ内山/村上冬樹/浦江アキコ/広岡由里子/原ひさ子/河合美智子/宮本信子*/大槻ケンヂ/東京スカパラダイスオーケストラ/布施絵里(ふせえり)/大杉漣*

*友情出演

 

音楽 周防義和

 

ファンシィダンス - Wikipedia

【本編】『ファンシイダンス』<2週間限定公開> - YouTube

 

 

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