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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「すばらしき世界」 2021

すばらしき世界

★★★★☆

 

あらすじ

 恵まれない環境で育ち、成人後はそのほとんどを刑務所で過ごした元ヤクザの男は、カタギとして生きることを決意して出所する。

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感想

 人生のレールの外で生きてきた元ヤクザの男が、まともに生きようともがく物語だ。主人公は持病があって思うように働けないため、まずは生活保護を受けるのだが、それを心苦しく思って懸命に仕事を探すような男だ。だがやりたい仕事に求人はなく、やれそうな運転手の仕事も、自動車免許の再取得費用がないためにどうにもならない。そしてもちろん、前科があること、職歴がないことも大きな障害となる。

 

 本人にいくらやる気があっても、社会がそれを受け入れてくれない状況は相当しんどい。主人公は境遇に同情の余地があるとはいえ、ヤクザの世界で生きてきたのだからいわば自業自得的な側面があるが、やむを得ない病気やケガ、出産や家庭の都合などで一度レールを外れてしまった人間も同じ目に遭う。

 

 

 一度レールを外れたらもう元には戻れない社会は不幸だ。元に戻れないことも辛いが、元に戻れないことが分かっているからどんなに苦しくてもレールを降りられないことが何よりも辛い。つまりレール上にいようが、脱落しようが、どちらにしても誰も幸せではない社会になってしまっている。みんな苦しいのが当然だから、苦しみを訴える人が現れると、「苦しいのはお前だけじゃない。だから我慢しろ。」と言いたくなってしまうのだろう。

 

 社会の分厚い壁に阻まれる主人公だが、彼自身にも問題が全くないわけではない。一度キレてしまうと手が付けられなくなるし、自分の考えを意地でも押し通そうとする。ヤクザ時代の不法行為や罪に問われた殺人について反省をしておらず、社会規範にあやしいところもある。彼独自のルールがあって、それに従って生きているようだ。

 

 ただ、基本的には善人で、弱い者がいれば助けるし、間違いがあれば黙っていられない、まっすぐな性格をしている。厄介ではあるが、人情味のあるいい奴だ。

 

 主人公は、思うようにいかない生活に嫌気がさして、一度はヤクザの世界に戻ろうとするが、もはやヤクザも生きづらい世の中になっていた。行き場がない状況になってしまったが、多くの人のサポートを得て、彼はついに仕事を見つけることが出来た。主人公を応援する人々の温かさに心打たれたが、その反面、彼らがいなければとっくに彼は詰んでいたはずだよなと考えると複雑な気持ちになる。よき支援者たちと出会う運に恵まれなければ社会復帰できないなんて、なんて心許ない社会なのだと思ってしまう。

 

 ようやく社会に居場所を見つけた彼は、それを守るために努力する。だがその努力とは、問題に遭遇しても見て見ぬふりをし、自分の身を守るために決して関わらないというものなのだから悲しい。きっと主人公は、そんな人間になるために今まで俺は必死に頑張って来たのかと、ガックリきたはずだ。こんなすばらしき世界はイヤだ。

 

 そして、それを完ぺきにやってのけた時、彼の心は死んでしまったのだろう。この時点でもはや彼ではなくなってしまった。だからその後に起きたことは別に悲劇ではない。

 

 一筋縄ではいかない厄介な主人公を役所広司が魅力的に演じている。買ったばかりのスマホを案外ちゃんと使いこなしていて可愛かったり、喧嘩になると問答無用で殴り掛かって急にヤバさが顔を出したりと目が離せない。身近にいて欲しくはないが、どこか応援したくなるキャラクターだった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 西川美和

 

原案 身分帳 (講談社文庫)

 

出演

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仲野太賀/六角精児/北村有起哉/白竜/キムラ緑子/長澤まさみ/安田成美/梶芽衣子/橋爪功/康すおん/山田真歩/マキタスポーツ/三浦透子/奥野瑛太/

 

音楽 林正樹

 

編集 宮島竜治

 

身分帳 - Wikipedia

 

 

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