★★★☆☆
あらすじ
1970年代。紛争が続き、人通りの絶えた北アイルランドのベルファストで、音楽好きの男がレコード店をオープンする。
北アイルランドのレコード店・レーベルである「グッド・ヴァイブレーションズ」の創設者で、ベルファスト・パンクのゴッドファーザーと呼ばれるテリー・フリーの半生を描く。事実を基にした物語。
感想
終わらない紛争に嫌気がさし、レコード店を開いた男の話だ。治安が悪化し、巻き添えになるのを恐れて誰も街を出歩かなくなった時代に、敢えて店を出そうとする主人公は相当な変わり者だ。しかも特に成功する目算があったわけでもなく、やりたいからやっただけのノープランだ。
それでも少しずつ人は集まるようになる。そして今度は気に入った地元バンドのレコードを出すレーベルを始める。これまた売れそうだと判断したからではなく、単に気に入った曲がレコード化されていないと知ったからだ。だがそうした彼の動きが多くの人を惹きつけ、音楽が絶えて久しかったベルファストにムーブメントを起こしていく。
やがてバンドを引き連れ、バンでツアーにも出るようになる。その最中に紛争警戒中の警官に職務質問され、対立しているはずの地域の人間が一緒に行動していることに驚かれるシーンは印象的だった。誰がどこの地域出身なのか、そこにいた誰もがまったく気にしていなかった。
当時カトリックとプロテスタントで対立していた人たちは、貧困や格差で余裕をなくし、視野が狭くなっていたのだろう。冷静に考えればそれは人間の属性の一つでしかなく、それだけで相手を判断してしまうなんて、ましてや争うなんて馬鹿げている。
そういうことに気付かせてくれるのが音楽の力、カルチャーの力なのだろう。心に余裕がないと文化を楽しめないと言われるが、文化を楽しむことで心に余裕が生まれることもあるのかもしれない。
そこそこ順調でうまくいっているのに経済的には苦労し、妻にも愛想をつかされてしまう主人公には、もっとちゃんとした経営をすればいいのにと思ってしまう。だが本音を言えば主人公は、ただ好きな音楽を聴いて酒を飲んで酔っ払っていたいだけなのだろう。それができる環境が周りになかったから自分でやっただけで、はなから金儲けがしたかったわけではない。
最後に紹介されたレコード店のその後の歴史には思わず笑ってしまったが、それだけ地域に愛されているのだろう。主人公も本望に違いない。きっと主人公みたいな人は世界中のあちこちにいて、儲からないよと嘆きながら今日もローカルな活動を続けている。そう想像すると世界はそんなに悪いものじゃないかもと思えてくる。
描き方が断片的で分かりづらく、音楽映画としての盛り上がりにも欠けたが、こんなムーブメントがあったと知ることが出来る興味深い映画だった。
スタッフ/キャスト
監督 リサ・バロス・ディーサ/グレン・レイバーン
出演 リチャード・ドーマー/ジョディ・ウィッテカー/マイケル・コーガン/カール・ジョンソン/リーアム・カニンガム/エイドリアン・ダンバー/ディラン・モーラン
音楽 デビッド・ホームズ/キーファス・グリーン
登場する人物
テリー・ホーリー/アウトキャスツ/ルディ/アンダー・トーンズ