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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ベルファスト」 2022

ベルファスト(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 舞台は北アイルランド・ベルファスト。プロテスタント家庭の少年は、カトリック教徒が多く住む地域で近隣住民に温かく見守られながら暮らしていたが、プロテスタント強硬派による襲撃が常態化したことによってその生活に変化が訪れるようになる。

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感想

 宗教的対立を背景に不穏な空気が漂う中で暮らす少年が主人公だ。最初は主人公一家がカトリックなのかプロテストなのか、スッと頭に入って来なくて困ったが、これは自分が普段、そんなことを気にかけることなどないからだろう。そんな人間からしてみたら、そんなことで対立している彼らが馬鹿らしく見えてしまう。軍隊が出動し、夜は見回りをする光景には信じられない思いがあった。

 

 だがそう思っていたのは主人公やその家族、多くの住民たちも同じだったと分かって少し安心する。それをさも大問題のように騒ぎ立て、時に暴れていたのは一部の特定の人たちだけだったようだ。当時は失業率が最悪だったので、結局これは貧困に苦しむ一部の人たちの憂さ晴らしなのだろうなと察してしまう。彼らは日ごろの鬱憤を吐き出すためのターゲットを探していた。それが叶うなら、きっと犬派か猫派かでだって争いを始めただろう。

 

 主人公らが暮らすベルファストでは、宗教の違いが分かりやすかったから彼らの標的になってしまった。人種や国籍がターゲットになりやすいのもそれが理由だろう。日本でもよく見られるが、貧しい者が別の貧しい者を敵に見立てて攻撃する光景には悲しいものを感じてしまう。金持ち喧嘩せずと言うが、貧しいと心の余裕がなくなって、何かといちいち腹を立ててしまうのかもしれない。

 

 主人公の父親が強硬派の男にかけた言葉が強く心に残る。

 

「お前の問題は その劣等感だ」

 

 問題解決するためには、劣等感の裏返しで同じ立場の弱者を攻撃するのはやめて、まずは自分が弱者であることを素直に認めることが大事だろう。そうすれば解決すべき問題が見えてくるはずだ。戦うべき相手は横ではなく上にいる。

 

 ある日を境に主人公はそんな社会で暮らすことになってしまう。だが、住人同士が諍いを起こすようになったり、父や兄が強硬派に加わるように脅されたりとその暗い影響はありながらも、少女に恋して悩んだり、家族で映画を見に行ったり、祖父に勉強を教えてもらったりと、どこででも見られるような、ありふれた少年の日々を描いているのがいい。どんな異常な状況にいたって日常は存在する。

 

 

 頑張って勉強したのに当てが外れて片想いの少女と隣同士の席になれなかったりするなど、あちこちにユーモアを散りばめながらいくつものエピソードが綴られていくのだが、おそらくそのほとんどがうまく伝わって来てない感じがあった。悪くはないのだが、前半はどこかギクシャクとしたものがあった。

 

 だが出稼ぎによる父親の不在、経済的な苦境、治安が悪化した地元に留まるべきかどうかの煩悶など、抱えていたいくつもの問題を乗り越えて、終盤についに大きな決断を下した主人公一家の姿には胸が熱くなった。こうやって家族の歴史は紡がれていく。家族みんなが晴れ晴れとした表情でダンスをするシーンは楽しく、そして清々しさがあった。古き良き時代のコミュニティの終焉とそこで暮らした家族の物語だ。

 

 モノクロだが甘ったるいノスタルジーは控えめのシャープな映像が美しく、その構図もまたアイデア溢れるもので見ごたえがあった。ベルファスト出身のヴァン・モリソンの音楽も良いので、眺めているだけでも満喫できてしまう映画となっている。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 ケネス・ブラナー

 

出演 ジュード・ヒル/カトリーナ・バルフ/ジェイミー・ドーナン/ジュディ・デンチ/キアラン・ハインズ/コリン・モーガン/ターロック・コンヴェリー

 

音楽 ヴァン・モリソン

 

撮影 ハリス・ザンバーラウコス

 

ベルファスト(字幕版)

ベルファスト(字幕版)

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ベルファスト (映画) - Wikipedia

 

 

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