★★★☆☆
あらすじ
与謝野寛と結婚し、子だくさんで生活に追われていた主人公・与謝野晶子は、偶然出会った有島武郎と強く惹かれあう。
感想
与謝野晶子を主人公とした物語。彼女の半生を描いたものかと思ったのだがそうではなく、彼女の目を通して見た大正時代の文化人たちの姿が描かれている。有島武郎や大杉栄、島村抱月など、教科書で名前だけは見た事があるような人物たちが次々と登場してワクワクする。
そんな中、資産家で作家の有島武郎とアナーキストの大杉栄の意外な交流があったことなども描かれたりしていて面白い。それから登場はしないのだが谷崎潤一郎の名前も出てきて、個人的には昭和の作家のイメージのある谷崎だが、もうこの時代から既に活躍していたのかとこれまた意外な気がした。
豪華な俳優たちの演じる文化人たちの様子は確かに興味深いのだが、主人公の与謝野晶子は自由で奔放なイメージがあるだけに、彼女の半生をもうちょっとじっくり見たかったというのはある。一応、有島武郎との恋愛は描かれているのだが、夫である与謝野寛との関係だったり、反感を買ってしまった子供たちとの関係だったりはおざなりな描かれ方。せっかくの面白いキャラクターをセリフ回しにだけ使うのはもったいない気がする。
メインである主人公と有島武郎との恋愛は確かにイメージ通り奔放だなと思って観ていたのだが、それは夢なのかよ、とツッコみたくなるまさかの展開だった。この二人の関係はどこまで史実か分からないので、ぼやかしたという事なのかもしれない。それから彼女が夫に敬語を使ったり命令されたりと、昔ながらの夫に仕える従順な妻という古風な夫婦関係だったのはイメージと違った。そこは進歩的に対等な関係の二人なのかと思っていた。
ラストは関東大震災。それまで女房の稼ぎで好き勝手やって、どうにも頼りなかった与謝野寛の泰然自若ぶりが印象的だった。生きていく以上は、失意で打ちひしがれたところでどうせいつかは立ち直るのだから、それなら最初から打ちひしがれる必要はないとでも言うような態度。これは「禍福はあざなえる縄のごとし」という言葉を実感できるほど、年齢を重ねた人間が到達できる悟りなのだろう。結局、いつの時代も良い事も悪い事もある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 深作欣二
脚本 筒井ともみ/神波史男
出演 吉永小百合/松田優作/石田えり/池上季実子/石橋蓮司/内藤剛志/蟹江敬三/西川峰子/成田三樹夫/中田喜子/風間杜夫/松坂慶子/緒形拳
音楽 井上堯之
撮影 木村大作
登場する人物
与謝野晶子/有島武郎/伊藤野枝/島村抱月/大杉栄/与謝野寛