★★★☆☆
あらすじ
漢の初代皇帝・劉邦は晩年を迎え、過去の戦いを振り返る。
感想
晩年を迎えた劉邦が過去を回想しながら、後顧の憂いをなくすために粛清を行っていく様子が描かれる。キーとなる「鴻門の会」も項羽との対決も、中国人や歴史に詳しい人ならみんな知っているような事なので、描き方を工夫しているという事なのだろう。
劉邦が天下を取って行く過程がアクション満載で描かれていく映画かと思っていたがそうではなく、登場人物たちの心理的側面を丁寧に描いていく内容となっている。映像も彼らの内面を浮かび上がらせようとするように、陰影が濃くなっている。
もはや劉邦の意識が混濁しているという事なのか、韓信が粛清されていく流れがいまいち分かりづらかった。韓信はまず牢獄に6年間つながれ、その後、張良の家に6年幽閉された後、謀反の嫌疑で処刑された、という事か。6年もあの状態でつながれるのはきついし、その後に牢獄から出したというのもすごい。そんなに長い事つないでいたという事は、もはや見捨てたようなものかと思っていたが、現代と同じように懲役6年、みたいな感じだったのか。
韓信が謀殺されるとほぼ分かっていながら、そこに向かって一歩ずつ進んでいくときの、何とも言えない表情が切なかった。そして処刑の瞬間は、走馬灯のように劉邦との思い出が駆け巡る。この二人の楽しかった過去の思い出の総集編は、もう男女の恋愛とそう変わらないなと思ってしまった。二人で見つめ合い、笑顔を交わしている。
そして劉邦も死期を迎える。「鴻門の会」がすべてだった、と語るわけだが、そこで死んでいたら今の彼はなかったという意味では、確かにターニングポイントであったことは間違いない。でも、映画的にはそんな風に感じられるようには描かれていなかったのが若干モヤモヤとした。
ただあの窮地に全力で彼を守ろうとしてくれた人間たちを、今は次々と粛清しているという何とも言えないやりきれなさは伝わってくる。天下を取ったとしても楽しい事ばかりではない。ラストの白髪、白装束でふらふらと彷徨う年老いた劉邦の姿は、黒澤明の「乱」のシーンを思い起こさせた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ルー・チュアン
出演 リウ・イエ/ダニエル・ウー/ニエ・ユエン
登場する人物
劉邦/項羽/韓信/呂雉/張良/蕭何/項伯/子嬰/項荘