★★★★☆
あらすじ
大正時代。無政府主義者が集う「ギロチン社」のメンバーたちが、女相撲の一行と交流する。
感想
アナーキストと女相撲というのは意外な組み合わせという気がするが、共に現実に抗うという意味では似ているのか。アナーキストは政治体制に、女相撲は女はこうあるべしという世間の常識に。特に女相撲のメンバーたちの、世間が押し付ける女としての役割なんて馬鹿らしい、そんなものより強くなって自分の力で生きていくのだという強固な意志には、常識なんてくそくらえというパンクな精神を感じた。
しかし、女相撲は1950年代ごろまではいくつかの団体もあって割と普通の存在だったそうだが、今ではだれもそんな事を知らない。つまり、今普通にあるものでも、数10年後にはその存在さえ忘れ去られしまっているものがあるかもしれないということか。そう考えるとなんだか不思議だ。ただ、今だと面白いコンテンツは有り難がられるので、逆に女相撲が復活したりすることもあり得そうだ。
誰が主役というわけではない青春群像劇。その中でも無政府主義者たちのその場の思いつきだけで計画性もなく、勢いで何とかしてしまおうとする姿はなんだかリアルだった。運動のためだと他人にたかってはその金で女遊びばかりしていたり、いざとなると俺はもっとデカいことをやるのだからと言い訳をしたり、逃げ出したり。頼りないというか、信用できない感じが滲み出ていてちょっと笑ってしまう。でも彼らの活動を見ていると、エネルギーを持て余して大言壮語しながらも、勢いだけの無責任な行動ばかりを繰り返す若者特有の無邪気さとよく似ていて、この二つは相性が良いような気がしてきた。
しかし無政府主義者というのは、権力者を倒すのは良いとして、庶民と連帯するのは大変そうだ。物騒な事ばかりしていると敬遠されてしまうし、意外と多い権威主義者には糾弾されてしまう。それでも対立するのではなく、そんな彼らを受け入れて説得し、共に手を取り合わなければならない。なかなかの忍耐が必要だ。そしてもしそれが上手くいったとしても、今度は活動を円滑に行えるようにと組織化なんかをしていたら、やがては彼らが倒そうとしている政府のような組織になってしまっている可能性もある。考えれば考えるほど、彼らの活動はどうやっても上手くいかないような気がしてしまう。このあたりは詳しく知らないのであれだが、実際はそんなときどうするべきなのか、しっかりとした理論がきっと用意されているのだろう。
正直聞き取れないセリフが多くて、特に無政府主義者たちが具体的に何をやろうとしているのかはほとんどよく分からなかったのだが、それでも彼らの熱量だけはとてもよく伝わってきた。そして、親方を含めた女相撲のメンバーたちが権力に抗う最後のシーンは胸が熱くなった。三時間以上ある作品だが、全然ダレることなく一気に見ることが出来た。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 瀬々敬久
脚本 相澤虎之助
出演 木竜麻生/東出昌大/寛一郎/韓英恵/嘉門洋子/嶺豪一/渋川清彦/小木戸利光/山中崇/井浦新/嶋田久作/大森立嗣/菅田俊/渡辺謙作/鈴木卓爾/奈良大介/(声)永瀬正敏
音楽 安川午朗
登場する人物
中濱鐵/大杉栄/正力松太郎