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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「白鯨」 1851

白鯨 (上) (角川文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 凶暴な白鯨「モービィ・ディック」を倒すことに執念を燃やす男が船長を務める捕鯨船に乗り込んだ男。原題は「Moby-Dick; or, The Whale」。

 

感想

 序盤は、主人公が捕鯨船に乗り込むまでの様子が描かれていく。陸に飽きて海の世界を見てやろうと思い立ち、それらなら客ではなく、金を貰えて最前線で観察できる水夫になってやろうと語る決意や、港にたどり着くまでに起きた出来事などが描かれ、面白く読むことが出来た。そのまま乗船後も同じようなテイストで続くのかと思っていたのに、その後はガラリと雰囲気が変わってしまう。

 

 船が出港すると、主人公が自身の行動に言及することはほぼ無くなり、船内で起きていることを第三者的に伝える単なる報告者となってしまった。ここからは白鯨に対して異常な執念を燃やす船長を中心とした上官らの様子に焦点が移る。船長が船長だけに、どこか不吉で暗い運命を予感させるような陰鬱さがずっと漂っている。

 

 またそれと同時に、クジラについての詳細な解説、捕鯨船で行われる仕事の内容や船内各施設の紹介など、物語とは別の長々とした説明文が頻繁に挿入される。当時は捕鯨船の実態を知る手立てはなかなか無かっただろうから、百科事典的な役割も果たしていたのかもしれないが、今読むとかなりかったるい。それに、その語り口にはインテリを感じさせるものがあって、主人公のキャラと合っているのか?と少し気になった。

 

 

 それから「転桁索」「前檣帆」「上檣帆」など、読むのも難しい船舶用語がたくさん出てくるのもしんどい。そもそも船舶の各部名称を知らないのでどうしようもないのだが、せめて「マスト」とか横文字でも分かりそうなものはそのまま横文字で表記して欲しかった。「前檣頭(フォーマストヘッド)」のように漢字の横に横文字のルビが振ってあったりはするので、文字数を減らすための処置だったのかもしれない。

 

 漢字が読めないし、調べて読めたところで船のどの部分なのだかいまいちわからないしで、用語が頻出する箇所では心が挫けそうになってしまった。船舶用語を知らないと海洋小説で苦労する。昔「老人と海」を読んだ時もつらかったのを思い出した。

 

 上下巻の最終部分でようやく白鯨と出会い、船長と白鯨の壮絶な戦いが繰り広げられる。クジラはそんなに凶悪な生き物なのかと驚かされるが、激しさと恐ろしさの感じられる文章でグイグイと読ませ、引き込まれる。そして呆気に取られてしまうような決着となった。それまでに漂っていた不穏な空気からすれば当然の帰結だったのかもしれないが、長々とやった後でこの結末を持ってくるのはすごい。白鯨の恐ろしさと共に、私怨のために乗組員全員を巻き添えにする船長の異常な狂気が、いつまでも心に残る。

 

 冗長だった説明パートを省略し、よりコンパクトなサイズにしたら読みやすくなるような気がするが、これが狂気や異常さを醸し出す効果を生んでいたような気もする。変更を加えてしまったら特別さを失い、普通に面白いだけの普通の小説になってしまうのかもしれない。

 

著者

ハーマン・メルヴィル

 

 富田彬

 

白鯨 - Wikipedia

 

 

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