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「ケロッグ博士」 1993

ケロッグ博士 (新潮文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 コーンフレークを開発したケロッグ博士と、彼の経営するサナトリウム周辺に集まった人々の人間模様。

ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ - Wikipedia

 

感想

 何かの本で、ケロッグ博士は性欲を減退させるためにコーンフレークを開発したという話を読んで、なんでそんなことをするのか興味を持ち、この本を読んでみた。勝手に伝記的なものを期待していたのだが、そうではなくケロッグ博士が運営する健康道場、サナトリウムを中心に巻き起こる事件を描く物語だった。個人的にはケロッグ博士はコーンフレークを開発したという人という認識しかなかったが、アメリカではセレブが集うサナトリウムを主宰する健康の権威として有名だったようだ。健康ビジネスの走りと言えるかもしれない。ちなみにケロッグ社は、彼と袂を分かった弟が成長させた。

 

 ケロッグは、サナトリウムで自らが唱える健康法を患者たちに実践しており、それらは今でも通用しそうな、なるほどと思えるものもあるが、納得できないものもある。自然本来の姿でいることが重要だとし、野生の動物を観察するなどして参考にしているくせに、それでも禁欲を説くのはやはり不自然だ。ただ彼は元々宗教色が強く、そこから始まって後から医学的知識でそれを補完するようになったからこんな感じになっているようだ。その他、菜食主義を唱えるのも殺生を行なわないための意味合いが含まれていて、彼の健康療法は、個人的な思惑が多分に含まれた偏りのあるもののように感じた。

 

 サナトリウムでケロッグは、まるで自分が絶対的存在であるかのように振る舞う。患者たちに自分の理想を押し付ける様子はどこか宗教ぽさやブラック企業ぽさがあり、少し嫌な感じがある。実際、彼が考案した電気療法やラジウム治療で患者が死んでしまってもあまり気にする様子がないのは怖いし、自身の説を実証するためにイカサマ的な手口を用いたショーを行なう様子は、一歩間違えれば怪しい方向に進みかねない危うさがある。

 

 

 懐疑的な素振りを見せる患者にすら威圧的に自分の理想を押し付けている彼だが、彼より過激な健康法を主張する人物がやって来たら途端に面倒臭そうな顔をするのは面白かった。それは信奉者以外の人間が彼に見せる顔と同じだ。

 

 サナトリウムを訪れる様々な患者たちの様子も描かれるが、その中ではケロッグ博士の教えでは物足りなくなり、どんどんと自分で色々やりだす金持ちの夫人の話が印象的だった。彼女は今で言えば陰謀論にはまってしまった人みたいなものだろうか。自分だけが真実に気づけると思い込んでしまった人。それと同時に、体裁のよい言い訳があれば何でもやっちゃうのかと都合の良さも感じた。禁じられていた快楽も正当化してしまって楽しみ、だけど何も間違っていないかのように平気な顔をしていられる。この世で一番幸せな人は、上手く自分を騙せる人なのかもしれない。

 

 その他、ケロッグのおかげで健康の街として知られるようになったサナトリウムのある土地に、二匹目のドジョウを狙って起業家や山師、さらには詐欺師までもが全米各地から続々と押し寄せているというのも興味深い。ケロッグを中心にそんな患者や起業家などの思惑が交錯しながら展開する物語。ただ600ページ以上もある長編のわりには中身が薄く、話も平凡に思えた。トンデモ療法に夢中になるセレブ達を笑うブラックユーモア的要素もあるようだが、この時代同様、今も世界は怪しい健康情報に溢れており、そのせいで麻痺してしまっているのか、特段笑えることもなかった。

 

著者

T・コラゲッサン・ボイル

 

 

 

登場する作品

「伝染病講義」 シルヴェスター・グレイアム

「よくわかる性生活」 ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ

「人間、この最高傑作」 ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ

「病める大腸」 ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ

「朝食旅日記」 ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ

わたしの生涯 (角川文庫)(わが人生の物語)」

Annie and Willie’s Prayer (English Edition)(アニーとウィリーの祈り)」

「自然みずから語る書(Nature's Own Book)」 アセナス・ニコルソン

「義勇団文化」 ゲルハルト・クンツ

Camping and Tramping with President Roosevelt(ルーズベルトのキャンピング、トランピング)」

ジャングル (アメリカ古典大衆小説コレクション)

「食べるために殺してもいいのか?」 ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ 

「ヘレナ・リッチ―の目覚め(The Awakening of Helena Richie (English Edition))」

「ナッツは人類を救う」 ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ 

 

 

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