★★★★☆
あらすじ
娘の幼稚園で起きた出来事がきっかけで、テレビで料理番組をやることになってしまった科学者の女性。
感想
なぜか料理番組を受け持つことになった子持ちの女性科学者が主人公だ。タイトルから、毎回の番組の様子を描いていく一話完結のシリーズものみたいな構成かと想像していたのだがそうではなく、彼女が料理番組をやるようになった経緯が描かれていく。
複雑な家庭に育ち、元々は化学者を目指していた主人公の人生は、数奇な運命で彩られ、どこか「ガープの世界」を連想させるものがあった。その半生の中心にあったのは女性に立ちはだかる様々な壁が理解できず、それを乗り越えようとしてきた主人公の想いだ。
1960年代が舞台となっており、女の科学者なんているわけがなく、働く女性は秘書かタイピストで、同棲なんてふしだら、未婚で出産なんてとんでもないとされていた時代だ。主人公はそのタブーをすべて破りながら、自分の道を進もうとする。
だが当然世間の壁は厚く、彼女は何度も挫折させられる。痛快というよりは苦い思いをさせられることの方が多いのだが、独特な主人公のキャラクターとユーモアあふれる語り口がどこかとぼけた味わいとなっており、可笑しみがある。妙に漕艇選手を自虐でディスるのは笑えた。
また、未婚で妊娠した女性は世間体が悪いので退職してもらうことになっています、みたいな理不尽な言い分に対して、必ず彼女が、それは未婚で妊娠させた男性もですか?などと切り返すのも機知に富んでいた。同じ行いをしても男と女では扱いが変わることを示している。
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そんな彼女がひょんなことからテレビの人気者となる。正直なところ、塩を塩化ナトリウムと言うような化学用語を多用する料理番組の様子はあまり面白そうにはみえないのだが、彼女の女性に対する偏見に屈しない理路整然とした態度に人々は惹きつけられたのだろう。彼女の言動に全国の女性が勇気づけられていく。
しかし60年ほど前は、アメリカと言えども女性に対する偏見は相当ひどかったのだなと思い知らされる。そして、まだ全然納得できるレベルにはないのだろうが、それでもわずか60年でよくもここまで変われたものだと感心する。
だがこの急激な進歩が、現在の強烈なバックラッシュを招いてしまっているのだろう。女性だけでなく、マイノリティたちの地位も向上したが、その間に白人男性は既得権益を奪われ続けた。彼らの不満が渦巻くのも分かるような気もする。しかも既得権益にあぐらをかいていた時代を知る人たちがまだ大勢いるわけだから当然だろう。
主人公の恋人が白馬の王子すぎる気がしないでもないが、番組終了から主人公が科学者として復活するまでの終盤の流れは見事で、爽やかな読後感に包まれる。そして壁を前にして勝手にあきらめたりしないで、やりたいことをやらないとなと思わせてくれる。元気になれる小説だ。
著者
ボニー・ガルマス
登場する作品
失われた時を求めて 1~第一篇「スワン家のほうへI」~ (光文社古典新訳文庫)
「コンゴの食人種と過ごした五年間(Five Years with the Congo Cannibals (Classic Reprint))」
三びき荒野を行く (昭和40年) (国際児童文学賞全集〈10〉 カナダ総督賞 カナダ編)
「わたしたちの日々の糧(デイリーブレッド: わたしとみんなのデボーション)」
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