★★★★☆
あらすじ
長崎の小さな島を出て、北海道の開拓村に移住する事にした一家。
民子3部作の第1作目。キネマ旬報ベスト・ワン作品。
感想
一家が島を出るシーンから物語が始まる。移住を決意し島を出ることになった経緯が描かれた後は、すぐに北海道での開拓生活が始まると思っていたのだがそうではなく、この長崎の島から北海道の開拓村まで移動する過程が描かれる物語だった。飛行機を使えば1日もかからず到着してしまいそうだが、調べてみると今でも陸路なら1日半はかかる行程で、当時は新幹線が新大阪―東京間しかなかったので3日以上はかかる旅となる。確かに、これだけで十分物語になりそうな移動だ。
しかし一家が旅をする姿を見ているだけで、切なくなってしまうのはなぜなのだろう。列車などの公共交通機関を使った旅だと、旅先で「家」のような役割を果たす自家用車などもなく、はぐれてしまえば簡単に離れ離れになってしまう家族というものの脆さがより強く感じられるからだろうか。そして大きな世間の波にさらされてみれば、家族なんて心細くて頼りない、ちっぽけな存在だと気づかされるからだろうか。
ここで描かれるのは、旅慣れない家族が全財産を持って移住するための旅なので特殊ではある。だが案外と家族旅行というものは、家族の脆さや心許なさをはっきりと露呈させてしまうような、切なく危ういものなのかもしれない。
旅の途中でそれぞれがそれぞれの家族の思い出を振り返る。電車に乗って何をするわけでもなく過ごす時間は、ついそんな忘れていたようなことまで思い出してしまう時間だ。家族の思い出を胸に、それぞれがそれぞれを思いやって道中を過ごしている。積み重ねてきたそんな家族の歴史が、家族を家族たらしめているともいえる。
想像以上に失うものが多いハードな旅なのだが、そんな中で見ている者の心を慰めてくれるのは、幼い子供ではなく、笠智衆演じる祖父なのが面白い。親族に邪魔者扱いされて子犬のように濡れた目で悲しそうな顔をしたり、重苦しい空気を和ませるために敢えておどけて見せたりと、一家のマスコット的存在になっている。良いキャラクターだ。そしてもちろん彼は彼で、家族のことを真剣に考えている。
途中の大阪で当時開催していた大阪万博の様子が見られるが、その他にも日本に勢いがあった頃の各地の風景が映し出されていて、それだけでも見る価値があった。
また、「男はつらいよ」でお馴染みのメンバーたちがチョイ役で出演していることもこの映画の見どころの一つとなっている。中でも初期の山田映画によく出ていたハナ肇が印象的だった。大都会東京で活躍する都会人役で出演している。多分一番素に近いのだろうが、これまで見た中で一番カッコよかった。こういうギャップがあるからコメディアンはモテるのだろうなと実感させられる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 宮崎晃
出演 倍賞千恵子/井川比佐志
梅野泰靖/前田吟/太宰久雄/花沢徳衛/ハナ肇/犬塚弘/桜井センリ/石橋エータロー/安田伸/三崎千恵子/森川信/塚本信夫/谷よしの
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