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「傷だらけのカミーユ」 2011

傷だらけのカミーユ (文春文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 強盗事件の巻き添えとなった恋人を守るため、犯人を追う警部。

 

 カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ三部作の第3作目。フランス文学。

 

感想

 警部である主人公の恋人が、強盗事件に巻き込まれ、瀕死の重傷を負う場面から物語は始まる。彼女はコーヒーを買おうとたまたまカフェに立ち寄ったことで事件に遭遇してしまった。犯人に激しく殴打されながらもゾンビのように立ち上がり、必死に逃げようとする彼女の姿は痛ましい。

 

 そして犯人の顔を見てしまったことで、彼女の命が狙われているらしいことが分かってくる。当然、主人公は何としてでも守ろうとする。被害者の関係者であることを隠して捜査を担当し、なりふり構わぬ手を使って犯人逮捕に全力を尽くす。

 

 

 主人公に加えて、恋人と犯人の視点も交えて物語は進行する。無茶な捜査で不信感を持たれ、警察内で苦しい立場に追い込まれていく主人公とは対照的に、ゲームを楽しむかのように犯人は余裕綽々だ。じりじりとした気分にさせられる。

 

 そして迎える終盤は、たくさんの驚きが待っていた。恋人の命を狙う犯人の度を越した執拗さや、捜査の進展と共に主人公に漂い始める物憂げなムードなど、それまでになんとなく感じていた違和感の正体が明らかになる。振り返ると、読者の注意を逸らすために、不運な恋人の懸命さに注目させた冒頭の強盗事件の描写は見事だった。

 

 主人公が職務上のリスクを冒してまで彼女を助けようとするのは、かつて妻を殺されてしまったからだ。その犯人が再び登場し、部下たちのその後も描かれる今作は、三部作の総決算といった趣があり、満足感があった。

 

 三部作それぞれの事件も面白かったが、全体を通すと主人公と女たち、もっと言えば母親への思いを描いた物語だった、という印象だ。ハッピーエンドとはならかなった切なくも納得の結末を、文句も言わずに受け入れる主人公に深く胸を打たれる。

 

著者

ピエール・ルメートル

 

 

 

登場する作品

The Recognitions (English Edition)

レ・ミゼラブル (上) (角川文庫)

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「タタール人の砂漠」 監督 ヴァレリオ・ズルリーニ

「エフゲニー・オネーギン(オネーギン (岩波文庫 赤604-1)

 

 

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