★★★★☆
あらすじ
家族とはぐれオーストラリアに養子としてやって来たインド人の少年が、成年後にインドの本当の家族を探そうとする。実話に基づいた映画。
感想
貧しい家庭に暮らすインドの子供が誤って回送電車に乗ってしまい、家族の元に戻れなくなってしまう。日本の感覚だとすぐに戻れそうな気がしてしまうが、インドは国の広さも人口も規模も全然違うので難易度が一気に上がる。そもそも幼い主人公が降りた駅では言葉が違って通じなかったというのが、もう日本の感覚では想像つかない出来事だ。そして、主人公が自分の住む土地の名前や家族の名前をちゃんと覚えていなかったのもつらい。
こんな時は周りの大人が助けてくれそうなものだが、ストリートチルドレンがいるような環境で、大都会という事もあって皆が無関心。他人にかまう暇なんてないという事だろう。子供たちに悪意を持って近づく大人たちもたくさんいる。そんな状況で幼い主人公が、1600キロ離れた家族の元に歩いて帰る物語なのかと思っていたが、そうではなくて途中でオーストラリアに養子に行ってしまった。さすがに飛行機に乗ってしまったら、子どもが独力で帰ることは出来ない。そして、時間は主人公が成人した20年後に飛ぶ。
すっかりオーストラリアの生活に馴染んでいた主人公が、ふとしたきっかけでインドの本当の家族のことを気に掛けるようになり、自分の故郷の場所を探し始める。逆にそれまでは何でそれをしようとしなかったのか?と思わなくもないが、過去にこだわる必要がないほど恵まれた環境だったから、という事なのだろう。実際、主人公は好青年に育っているし、そう育てた育ての親もとても良い人たちだ。彼がもし養子とならずにインドにいたままだったらと考えると、本当に環境というものは大事だという事が良く分かる。
彼がインドの家族を考えるきっかけとなったのは、都会に出てきて色んな人々と交流することで、自分のルーツを意識するようになったから。多様性の重要さがよく分かる話である。そして過去を思い出そうとすると、周囲の人々と距離を取りたくなるというのも分かるような気がする。自分の中の記憶を呼び戻すためには一人の時間が必要なはずだ。
そんな主人公の心中を、全編にわたってセリフではなくほぼ映像だけで静かに表現していく演出は見事。特にヒロインとの恋の始まりを、二人が道路の両サイドの歩道を並行して歩くだけで表現してしまうシーンはとても良かった。もうこれだけで二人のその後が想像できてしまう。
クライマックスの、ついに見つけた実の母親との再会のシーンも、わざとらしくなくさりげなく描かれていて、そのおかげで自然と泣けてくる。下手な演出をされると冷めてしまうが、これはまさに感動の再会だった。そして、完全にハッピーな再会ではなかったことに、フィクションではない現実のままならなさを思い知らされる。しみじみとした余韻に浸れる良い映画。
エンドロールで流れる主題歌は、シーアの「Never Give Up」。
スタッフ/キャスト
監督 ガース・デイヴィス
原作 25年目の「ただいま」
出演 デーヴ・パテール/ルーニー・マーラ/デビッド・ウェナム/ニコール・キッドマン/ ナワーズッディーン・シッディーキー
音楽 フォルカー・ベルテルマン/ダスティン・オハロラン
LION/ライオン 〜25年目のただいま〜 - Wikipedia
LION/ライオン 25年目のただいま 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!