BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「息子」 1991

息子

★★★★☆

 

あらすじ

 妻を亡くして岩手でひとり暮らす老人は、用事のついでに東京に住む子供たちそれぞれの家に立ち寄る。

www.youtube.com

 

 キネマ旬報ベスト・ワン作品。

 

感想

 子供たちに心配されながらも、岩手の田舎で一人暮らしをする年老いた男が主人公だ。子供たちは父親を引き取ることも考えているが、本人は頑なに拒否している。今さら新しい場所で肩身の狭い思いをしながら暮らすなんて嫌だという主人公の気持ちはよく分かるが、それでも気にかけてくれる子供たちがいるのは幸せなことだ。

 

 主人公は戦友会の行事に参加するついでに東京の息子たちの家に立ち寄ることにする。ここからのプロットは少し小津安二郎の「東京物語」ぽくなる。熱海に立ち寄るのもそうだし、戦友と愚痴を交わすのも子供たちの家を泊まり歩くのもそうだ。

bookcites.hatenadiary.com

 

 長男は、父親の面倒を見なければならないと義務感を強く持っていることが感じられる。出来る限りのことはしようとしているが、思い通りにはならない自分を不甲斐なく思っている。そんな息子の気持ちをちゃんと理解している主人公は、同居の誘いを断る。お互いに良かれと思って無理しても、共に不幸になることは目に見えている。時には遠慮せず本音を打ち明ける事も大事だ。興味深いのは、主人公がその本心を明かす相手が実の息子ではなく、息子の妻だったことだ。これも「東京物語」とよく似ている。

 

 

 ところで年老いた父親の処遇をめぐって親族が揉める描写は、この監督の20年前の映画「家族」でもあった。この時は子供目線だったが、今回は父親目線だ。それに他人に頼るしかない気の毒で哀れなおじいさんから、今回は自分で何とかしようとする主体性が感じられる老人へと描写が変わっている。これは時代の変化もあるが、監督自身の年齢も影響しているのだろう。そんな風に考えながら見てみるのも面白いかもしれない。

bookcites.hatenadiary.com

 

 長男の家をあとにした主人公は、次に次男の家に向かう。フリーターで頼りない暮らしをしている息子に対していきなり怒鳴ったり、案外しっかりと将来を考えていることを知って浮かれたりする主人公の姿は可笑しかった。息子が何歳になろうと父親は父親なのだなとしみじみとしてしまった。演じる三國連太郎のねちっこい演技が光る。

 

 岩手に戻った主人公が近所の人に声をかけられ、「自分は幸せ者だ…」と呟くように言う姿は印象的だったが、このまま死んでしまうのではないかと不安になってしまった。主人公は、誰もいない大きな家でポツンとひとり佇み、過去を回想する。その姿を見ていたら、これは親子の物語だけではなく、「家」の終わりの物語でもあるのかもしれないなと感じた。

 

 子供たちが東京に出る必要がなく、長男がこの家で家族を持っていれば、主人公は父親から祖父へと立場を変えて幸せな生活は続いていたはずだ。だが彼が死んでしまえば、先祖代々の家族の思い出が沁み込んだこの家の歴史は終わることになる。こんな風に呆気なく、一族のひとつの時代が終わってしまうのかと切ない気持ちになった。主人公はそんな時代の最後の日々を、続けられる限り細々と続けていくのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

bookcites.hatenadiary.com

 

脚本 朝間義隆

 

原作 「倉庫作業員」 「ハマボウフウの花や風」収録


出演 三國連太郎/永瀬正敏/和久井映見/田中隆三/原田美枝子/浅田美代子/山口良一/いかりや長介/梅津栄/佐藤B作/田中邦衛/レオナルド熊/中村メイコ/ケーシー高峰/音無美紀子/松村達雄/奈良岡朋子/中本賢/小倉一郎/

 

音楽 松村禎三

 

息子

息子

  • 三國連太郎
Amazon

息子 (映画) - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com