★★★★☆
あらすじ
行き詰まりを感じていたクラシックギター奏者は、コンサートの終わりにジャーナリストの女性と出会う。123分。
感想
ギタリストの主人公とジャーナリストの女性の恋が描かれる。東京、パリ、マドリッド、長崎、ニューヨークと、ワールドワイドに展開されるので見落としがちだが、実際には5年余りで4回しか直接会っていない男女の恋物語となっている。
それでもその間にメールのやり取りをしたり、CDを聞いたり報道を見たりして互いの活動に触れたりと、思いを寄せ合っていることが伝わってくるのでそれほど違和感はない。ただ初期のコンタクトでいきなりテレビ電話をするのは不自然かなと思ったが、そこは演出上の都合といったところだろうか。
二人は、気持ちが通じ合っていることは分かっているのに、すれ違いを続ける。その原因は、偶然のアクシデントから他人の悪意まで様々だ。恋愛という二人だけの問題といえども、いかに社会が関わってくるかがよく分かる。もう若くはない二人には、それまでに築いてきた人生から生じたしがらみがあるだけになおさらだ。
そんなすれ違いを何度も重ねる中で、強く意識するようになるのは、二人が惹かれ合うきっかけとなったであろう「過去は変えることができる」という言葉だ。彼らに起きた出来事の意味合いが次々と更新されていく。
離婚すれば幸せな時もあった結婚生活も違って見えてくるし、ひどいステージで最悪の一日だったはずでも、その夜に思いを寄せている人との距離が縮まれば、違う印象の一日となる。きっと失望ばかりしていた二人のすれ違いも、ハッピーエンドで終われば、たまらなく愛しい思い出に変わるはずだ。
原作を先に読んでいたので脳内補完している部分はあるのだろうが、月日が流れる中で変化していく主人公らの状況を、セリフですべて説明してしまわず、映像から読み取らせようとする演出には、グッと物語に惹きつける力があった。
そして、それなりの年齢である主演二人の若さの陰りを隠そうとはせず、敢えて残酷に映し出していることも、この年代特有の恋愛における焦燥感にリアリティを与えている。
深みのある大人の恋愛映画だ。
スタッフ/キャスト
監督 西谷弘
脚本 井上由美子
原作
出演 福山雅治/石田ゆり子/伊勢谷友介/桜井ユキ/木南晴夏/風吹ジュン/板谷由夏/古谷一行
音楽 菅野祐悟