★★★★☆
あらすじ
クラシックギタリストの男とジャーナリストの女が出会い恋に落ちる。
感想
ともに40代前後の男女が恋に落ちる。それは10代や20代の恋とは違って、それだけで動くことができない様々な事情を抱えてしまっている。例えば婚約者の存在やそれなりの立場を築いてる仕事、老齢を迎える両親や知り合いの存在。年を重ねればそれなりのしがらみを抱えている。そして不惑と言われる年齢ではあるが、なんとなくこの後の人生が見えてしまい、このままでいいのか、駄目ならどうするべきか、色々と迷う年頃でもある。
そんな二人の恋愛物語。最初の出会いで気持ちが通じ合い、そのまま勢いだけで転がっていくのかと思いきや、様々な事情が二人を押しとどめようとする。途中、アンジャッシュのコントばりのすれ違いもあったりして。二人の出会ってからの5年間が描かれているのだが、直接に顔を合わせたのは数えるほどしかない。それでも互いに相手の事を想っているのが不思議な感じがする。大人だから少し話しただけで相手のことが分かって恋に落ち、それだけにほとんど直接会っていないから不安になるという皮肉。でも確かに他人から見たら不思議な関係に見えてしまうだろう。
洋子は自分が、出口が幾つもある迷宮の中を彷徨っているような感じがした。そして、誤った道は必ず行き止まり、正しい道へと引き返さざるを得ない迷宮よりも、むしろ、どの道を選ぼうとも行き止まりはなく、それはそれとして異なる出口が準備されている迷宮の方が、遥かに残酷なのだと思った。
p209
様々な事情が絡み合い進んでいく人生。自分の選択が正しかったのかわからないままそれでも前に進むしかない心もとなさ。そんな中で本書の中で繰り返される「過去は変えることができる」という言葉は心強くもある。今の自分次第、これから自分の取る行動次第で、過去の出来事の意味合いを変えられる。だからこそ前向きに生きようと考えられる。
いわゆる恋愛小説ではあるが、イラク情勢や東日本大震災、リーマンショックや原爆のことなど現実の出来事を織り交ぜ、文化や社会に対する考察なども差し挟まれてかなり読み応えのある内容に仕上がっている。二人の結末も悪くない。
著者
平野啓一郎
登場する作品
ブラームス:間奏曲 イ長調 op.118-2?《6つのピアノ曲》より
イエスタデイ(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー/編曲:武満 徹)
Killing Me Softly with His Song
Fantaisie op 54 bis (Dans le genre espagnol)
Castelnuovo-Tedesco - Guitar Concerto No. 1 in D Major, Op. 99
「四日間」 ガルシン
「スクリャービンの主題による変奏曲」
「プレリュードとフーガ」 コシュキン
「ギターのためのソナタ」 バークリー
Suite populaire brésilienne, W020: ガヴォット?ショーロ(組曲《ブラジル民謡組曲》より)
失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)
「トッカータ」 ロドリーゴ
エンパイア・ステイト・オブ・マインド(feat.アリシア・キーズ) [Explicit] [feat. アリシア・キーズ]
ヴィラ=ロボス:12の練習曲 - No. 1 Allegro non troppo
ヴィラ=ロボス:12の練習曲 - No. 3 Allegro moderato
「イプノスの綴り」 ルネ・シャール
「月の光」 ドビュッシー 編曲 ジュリアン・ブリーム/ジョン・ウィリアムス
「トリプティコ」 ブローウェル
弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458 《狩》 第四楽章
「スカイ」 ジョン・ウィリアムス
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