★★★★☆
あらすじ
ある少女に片思いする男子高生の前に、おかしな格好をした少女が現れる。
尾道3部作完結編。110分。
感想
なかなか進展しない主人公の片思いの裏で、母親のかつての恋物語が明かされていく。主人公の前に現れた神出鬼没の謎の少女は、実は17歳の時の母親だった。だが散々それを匂わせつつも全然写真で確かめるなり、母親が気づくなりしなかったのは多少イライラした。
だがもし確定させてしまったら、物語がキッチリと生真面目な感じになってしまうから敢えてぼやかしたままにしたのだろう。それから彼女がピエロ的な大げさな化粧をしていたのも引っかかってしまったが、それも彼女が誰かを気付かさせないため、非現実的に見せるため、間違って主人公が恋をしてしまわないための演出なのだろう。
映画中盤を過ぎてから、主人公はようやく片思いの女性と言葉を交わす機会を掴む。ついに訪れた幸運に、思わず主人公は望遠レンズ越しにいつも彼女を見ていたと告白してしまうのだが、今ならこれは駄目なやつで相手が恐怖を覚えるシーンになってしまうはずだ。
だが映画のファンタジックな雰囲気のおかげで、まあこれはおとぎ話みたいなものだから、と納得させてしまうような不思議な説得力はある。相手の少女も意外と嫌な気はしておらず、驚きつつも喜んでいる。
自分の一方的な思いを女性が受け入れてくれるという主人公の恋は、冷静に考えると男の身勝手な理想でしかないような気がしないでもない。しかしこれとは別に、母親の独りよがりの思いが込められている物語が描かれていることも分かるので、そこはバランスが取れている。
不思議な少女の主人公への恋心は、血のつながりを考えると気持ち悪いが、そこは別の誰かの身代わりだと考えるべきなのだろう。主人公の母親に対する愛情の念というのは込められているかもしれないが。
メインはラブストーリーであるが、尾美としのり演じる主人公が友だちと悪戯したり、じゃれあったりして仲良くつるんでいる様子は、何気ないのだがそれでもどこかノスタルジックな気分にさせて、ちゃんと魅せるような演出になっているのがすごい。そして時に文学的なモノローグ、時にはスラップスティックな笑いなど、様々な要素を織り交ぜて物語を展開させていく混然一体感にはすごいパワーが感じられた。
わずかな時間の登場で存在感を放ちまくる小林聡美と樹木希林の二人の曲者にも感心させられた。このお年賀シーンは、もしかしたら「お正月を写そう」のCMのパロディだったかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
出演 富田靖子/尾美としのり/藤田弓子/小林稔侍/岸部一徳/浦辺粂子/佐藤允/根岸季衣/峰岸徹/樹木希林/小林聡美
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