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「ザ・ウェイバック」 2020

ザ・ウェイバック(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 朝から晩まで酒を飲み続けるかつての高校バスケのスター選手は、母校からコーチをして欲しいと依頼を受ける。

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感想

 朝から晩まで、仕事中ですらも酒を飲み続ける男が主人公だ。家の冷蔵庫には大量のビールをストックし、外では車の中に持ち込んだクーラーボックスに常備してタンブラーに移し替え、所かまわず飲んでいる。その飲みまくる姿があまりにも印象的で、なんだかこちらまでビールが飲みたくなってきた。

 

 彼が劇中で飲み続ける缶ビールは「Cutters」という銘柄だが、ちょっと検索しても見つからなかったので、恐らくは架空のものなのだろう。アル中が愛飲するビールなんてイメージダウンにしかならないのでどのメーカーも協力しなかったのだろうが、案外バカ売れするような気もする。見てると飲みたくなってしまうわけで、酒やタバコのCMが規制される理由がよく分かった。

 

 高校時代の主人公は、学校の歴史に残るようなバスケのスター選手だった。そんな彼に母校からコーチの依頼があり、迷いながらも結局は引き受ける。ここから熱血バスケ映画になるのかと思ったが、試合の様子はあまり詳細に描かれず、試合のスコアをただ伝えるだけのものも多くて、かなり淡白なものだった。だが大体スポーツもののパターンなんて決まっているので、この素っ気ない省略の仕方は新鮮だった。

 

 その代わりに描かれるのは、主人公がなぜ酒浸りになったかの理由だ。まず妻がいたことが分かり、次に子供がいたことが分かり…と少しずつ彼の過去が明らかになっていく。一度にすべてを説明しないので、情報が小出しにされるたびに彼に対する理解の解像度が上がっていく感覚があり、面白かった。妻と別れたからでも、子供と離れ離れだからでもなく、もっと深い悲しみが彼を自暴自棄にさせていたことが分かってくる。そんな事があったのならそうなってしまう気持ちもわかる、と彼に同情したくなった。

 

 主人公は、コーチを引き受けたことをきっかけに酒を断つ。それと同時に弱小だったバスケ部も勝利を重ねるようになる。そんな簡単にチームが強くなるのかと思わなくもないが、優秀な選手だった彼はバスケを見る目があると言うことなのだろう。それなりの説得力はある。

 

 

 快進撃を続けるチームだったが、主人公はふいに遭遇した辛い事件をきっかけに再び酒に手を出し、コーチをクビにされてしまう。しかし、大躍進の功労者をこんな簡単に追放してしまうのかと驚いた。能力はあるのだから多少のことは目をつぶればいいのに厳しいなと思ってしまったが、もしかしたらこれは両者にとって最善の処置なのかもと思い直した。

 

 ここで彼をクビにすることで生徒たちへの悪影響は最小限に抑えられるし、主人公の名誉もある程度は守られる。主人公は留まることで不祥事を重ねずに済んだし、それで生徒たちからのリスペクトを完全に失わずに済んだ。彼がした善い行いも完全には帳消しにならず、感謝する生徒だっているはずだ。

 

 功績もちゃんとあるのに、不祥事を隠蔽しながらズルズルと続けた結果、アンタッチャブルで迷惑なだけの存在になってしまった人は世の中にたくさんいる。そう考えると、最後にちょっと問題を起こしたけどチームの躍進に貢献してくれたコーチ、くらいのイメージで去れる主人公は全然ましだろう。

 

 辛い出来事でアル中になった主人公だが、同じような境遇の人がすべてアル中になるわけではない。主人公は他人のためなら頑張れるが、自分のためには頑張れない人なのかもしれない。高校バスケのスター選手になったのも、その後に不可解な進路を取ったのも、すべては自分を愛してくれなかった父親に対する意趣返しだったというのは、それを裏付けるようなエピソードだ。他人の事ばかりを考えて行動していると、自分の事が分からなくなる。自分のために何をすればいいのか分からないのは哀しい。

 

 自分たちの強み弱みを知ることで強くなっていったチームのように、どん底だった主人公は、己を深く知ることで再生しようとする。ラストシーンでの、今は関係が断たれてしまったバスケチームにリンクするように、ゴールに向かってシュートを放ち続ける主人公の姿がいつまでも心に残る。

 

スタッフ/キャスト

監督/製作 ギャヴィン・オコナー

 

出演 ベン・アフレック/アル・マドリガル/ミカエラ・ワトキンス/ジャニナ・ガヴァンカー/グリン・ターマン/ヘイズ・マッカーサー

 

ザ・ウェイバック(字幕版)

ザ・ウェイバック - Wikipedia

 

 

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