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「盗まれた欲情」 1958

盗まれた欲情

★★★☆☆

 

あらすじ

 旧態依然とした演劇にうんざりしながらも、旅役者一座の一員として田舎町にやって来た若い演出家。

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感想

 パッとしない旅役者一座を描いた物語だ。序盤は大阪・通天閣近くでの興行の様子が描かれる。役者たちはギャラが支払われないことに怒り、ストリップだけ見て帰ろうとする客にやる気を失くし、不満がたまって喧嘩ばかりしている。ちょっとしたドタバタ喜劇ではあるのだが、あまりセリフが聞き取れず、何をやっているのかがいまいち分からなくて、上手く映画に入っていけない居心地の悪さがあった。

 

 この頃の映画はセリフが明瞭に聞き取れないものが多くて、第一印象が悪くなりがちだ。しばらく見ていると段々慣れてきて、何を言っているのか、大体は分かるようになってくるのだが、最初に受ける悪い印象でかなり損をしているように感じる。その後が余程面白い内容でないとこれを挽回できない。気の毒な話だ。

 

 

 その後、一行は地方の村へ巡業に向かう。当地では村人たちに大歓迎され、一行は上機嫌だ。娯楽がそれなりに揃っている都会とは違い、何もない田舎の村では彼らの出現はお祭りみたいに心浮き立つものなのだろう。両者のウィンウィンの関係が見られる幸福な光景だった。

 

 役者たちは大スターのように扱われ、村娘たちは役者を追っかけ、若い男たちは女優に熱視線を送る。役者の中には村の女に手を出そうとしたり、ファンに取り入って見返りを得ようとする者もいる。その他、興行に便乗して儲けようとする者、これを機に一座に加わり村を脱出しようとする者などもいて、様々な人間模様が繰り広げられる。

 

 そんな中で、村の若い男たちの暴走ぶりがちょっと怖かった。お祭り気分でテンションが上がっているのだろうが、女優たちの風呂を覗くのはまだいいとして、女優の一人をさらおうとしたのにはドン引きしてしまった。今でもテンションの上がった若者の群れが事件が起こすことはあるが、行動に歯止めが効かず、どんどんとエスカレートしていく集団というものは恐ろしい。

 

 新しい演劇をやりたがる演出家の主人公に、伝統的な舞台興行をやってきた役者の矜持を示す座長や、誰もいない舞台でひとり稽古に励む看板役者など、舞台に対する演劇人の真摯な思いも垣間見られる。役者たちの光と影、表と裏が見られる深みのある物語だ。

 

 物語のメインとなる主人公の恋は、既婚の女優への想いが成就しないと分かったら、自分を好きだと公言していたその妹とさっさとくっついてしまう随分と都合の良い展開だった。だがこれは現実世界でも割とよくある話で、これもまた人間臭いエピソードの一つだと言えるかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督 今村昌平

 

原作 テント劇場 (ROMANBOOKS)

 

出演 滝沢修/菅井きん/柳沢真一/南田洋子/喜多道枝/長門裕之/西村晃/小沢昭一/仲谷昇

 

音楽 黛敏郎

 

盗まれた欲情

 

 

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