★★★★☆
あらすじ
ネットで炎上事件を起こしてレストランをクビになり、就職先が見つからずにいた料理人の男は、フードトラックの屋台をはじめる。
感想
レストランのオーナーに止められて思い通りの料理を出すことが出来ず、評論家に酷評されてしまったシェフが主人公だ。使い慣れぬツイッターで反撃したことで炎上してしまい、クビになって次の仕事も見つからない。こんな風に、SNSがどういうものなのかよく分からないまま使ってしまい、窮地に立たされてしまう人を昔はよく見たなと懐かしい気持ちになった。
他にもチャットアプリやショート動画投稿サイトなどが登場し、この映画ではうまい感じにこういったネット・テクノロジーを取り上げている。次々と出てくる新しいブームについていけないとぼやきながらも、その利点もちゃんと認めている。とてつもない技術とことさらに持ち上げるわけでも、味気ないと頑なに否定するわけでもなく、いつの間にか自然と受け入れていくのがリアルだ。世の中もそんな風にしてスマホやツイッターを日常の一部にしてきた。
主人公は次の仕事が見つからずに焦るのだが、どこかに雇ってもらうことばかり考えて、全然自分でレストランをやる気がないのが不思議だった。そもそも仕事を辞めたのは自分の作りたい料理をオーナーが作らせてくれなかったからで、それができるようになるには自分でオーナーシェフをするのが手っ取り早い。さすがに炎上後は無理かもしれないが、そこそこ有名なシェフのようだからそれ以前なら出資してくれる人はたくさんいたはずだ。
ただ彼は純粋に料理がしたいだけで、レストラン経営には興味がないのだろうと思わせるところはあった。なにせ仕事をクビになった日に帰宅して何をやるのかといえば、料理をする人だ。無職になって困るのは、収入がないことでも世間体が悪いことでもなく、とにかく料理が出来ない事だとも言っている。その他にも彼の料理に対する情熱が伝わってくるシーンはたくさんあり、彼が作る美味しそうな料理の数々がそれに説得力を与えていた。
最終的に主人公は、自身でフードトラックをやることにする。結局オーナーシェフみたいなものだが、規模が小さいので許容範囲ということなのだろう。しかし彼にそれをずっと勧めていた元妻がめちゃくちゃいい人だった。なんとなく別れた元妻というのは冷淡なものだという固定観念があったが、それを見事に裏切るキャラクターだった。こういう関係の元夫婦は、世の中には実際多いのかもしれない。
そしてここからトラックを手に入れたマイアミから地元のLAまで、商売をしながら旅をするロード・ムービーとなっていく。主人公らが軽口を叩きながら手際よく仕事をする様子や美味しそうな料理、各地のローカル色豊かな雰囲気など、見ているだけでも楽しくなってくる。これに、同乗していた普段は離れて暮らす息子との絆を深めるハート・ウォーミングな話も加わるのだから非の打ち所がない。
使われている音楽も良い。トラックの中で皆で陽気にマーヴィン・ゲイの「セクシャル・ヒーリング」を合唱するシーンは面白かった。
旅が終わった後のラストも、これまでの話が全てうまく収まるような大団円で、良い気持ちにさせてくれた。ロバート・ダウニー・Jrやスカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマンなど出演陣も意外と豪華で、その点も楽しませてくれる。
監督・主演などを務めるジョン・ファヴローは、「アイアンマン」などの大作映画の監督というイメージが強いが、彼がキャリアの初期に脚本を書いた「スウィンガーズ」とか好きだったので、こういうこじんまりとした作品ももっと撮って欲しい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作/出演 ジョン・ファヴロー
出演 ソフィア・ベルガラ/ジョン・レグイザモ/スカーレット・ヨハンソン/オリヴァー・プラット/ボビー・カナヴェイル/エムジェイ・アンソニー/ロバート・ダウニー・Jr
シェフ 三ツ星フードトラック始めました - Wikipedia