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「赤い殺意」 1964

赤い殺意

★★★★☆

 

あらすじ

 一族の中で虐げられて暮らす女は、夫の留守中に強盗に暴行されてしまう。

 

感想

 夫や義母にいつも馬鹿にされ、虐げられながら暮らす女が主人公だ。従順だった女が、夫の留守中のある夜、強盗に入った男に暴行されたことから何かが変わっていく。

 

 この主人公は、夫や義母の見下した言葉に素直に従ってしまうくらいだから、強盗にも従順かと思ったらそんなことはなかった。刃物を持った男に対して歯向かうし、大声を出して抵抗もする。案外とたくましいのだなと思ったが、いくら相手が酷い人間だと言っても、身内と赤の他人の強盗では対応が変わるのは当たり前か。

 

 

 事件直後の主人公は自殺を考えたりもするのだが、結局は思いとどまる。だが一応自殺を試みてはいて、あえなく失敗に終わっている。ちょっとした人間喜劇のシーンになってはいるが、ここで自殺が成功して話が終わってしまう可能性もあったわけで、人間の生き死になんて紙一重だ。

 

 世の中にはこんな風に自殺を試みるも失敗し、今は何でもないような顔をして生きている人なんてたくさんいるのだろう。逆に突発的に行った自殺が見事に成功してしまい、運が良いのか悪いのか、本当に死んでしまった人もたくさんいるはずだ。

 

 その後、強盗の男が再び主人公の前に現れたことにより、二人の間に奇妙な関係が生まれていく。二度と男に付きまとわれないようにと、彼に積極的にコンタクトを取りにいくようになってしまった主人公は、まるで一度詐欺にかかったら何度も同じような被害に遭ってしまうおつむの弱い人に見えてくる。

 

 だがきっと彼女は無意識で、男が自分を古い因習に囚われた田舎から連れ去ってくれるのではないかと期待していたのだろう。時おり唐突に聞こえてくる老婆たちがひそひそと会話する声は、主人公が田舎の何かとうるさい周囲の目を気にしていることを示している。そんな閉鎖的な社会から抜け出すきっかけを求めて主人公は、手切れ金を渡すため、相手を殺すためと、何かと理由をつけては出かけていく。

 

 それを象徴的に示すような、激しく雪が降る中、路面電車を降りたばかりの主人公が、再び男に会うために逆方向からやって来た路面電車にそのまま乗り込むシーンの映像は美しく、印象に残る。

 

 ついに二人は、東京に行くための電車に乗り込むが、大雪のために立ち往生してしまった。しがらみだらけの田舎から逃れることがいかに困難か、それを暗示しているかのようだ。男もいなくなり、主人公は家族の元に戻っていく。

 

 だが戻った主人公は、もはやこれまでの彼女ではなくなっていた。一連の騒動の中で彼女はいろいろと学んだ。尊大な態度を取る夫だが自分を必要としている。小言ばかり言う義母も老いとともに不安を覚え、自分を頼りに思っている。皆に虐げられて自分は駄目な人間だと思い込んでいたが、実は別にそのままの自分でいいのではないかと思えるようになった。彼女を求め続けた強盗の男が自尊心を与えてくれたともいえる。

 

 開き直ったかのように夫の詰問にはすっ呆け、義母の小言には白々しい言葉を返すふてぶてしくなった主人公の姿が印象的だった。ラストの、夫の文句に一切動じず、彼の要求には応じないで自分のやりたいことを続けるシーンは、したたかになった彼女の明るい未来が見て取れた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 今村昌平

 

脚本 長谷部慶次

 

原作 赤い殺意 (集英社文庫)

 

出演 春川ますみ/西村晃/露口茂/楠侑子/加藤嘉/北林谷栄/宮口精二/小沢昭一/殿山泰司

 

音楽    黛敏郎

 

撮影 姫田真佐久

 

赤い殺意

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