★★★★☆
あらすじ
黒人リンチを題材にした「奇妙な果実」で当局に目をつけられた歌手ビリー・ホリデイは、執拗な監視を受けるようになる。
アンドラ・デイ主演のビリー・ホリデイの伝記映画。131分。
感想
スター歌手、ビリー・ホリデイの生涯を描く伝記映画だ。公民権運動に大きな影響を与えた「奇妙な果実」を発表した後の彼女がメインで描かれる。
大衆への影響を恐れる当局から、彼女は徹底的にマークされるようになる。だが単純に歌を歌うこと自体を止めることは出来ないので、彼女のドラッグ使用に狙いを定め、執拗に監視する。
彼女はそれで逮捕され、一年間の服役をすることになった。そのままクスリを断ったのかと思ったが、わりとあっさりと再び手を出してしまう。だから当局の恐ろしさよりも、中毒性のあるクスリの怖さの方がひしひしと伝わってくるような気がしないでもない。
途中で売春婦の母親に育てられた少女時代を回想するシーンは、その入り方の演出が巧かった。劣悪な環境で子供時代を過ごし、スター歌手になった後も男に搾取され続け、さらには当局にマークされて仕事まで制限されてしまったら、そりゃクスリにも走りたくなるだろうなと同情してしまう。
特に当局が、クスリに手を出したくなるような状況に彼女を追い込むのは酷い。クスリで捕まった芸能人がよく世間に叩かれて仕事も奪われているが、あれもよく考えれば、再びクスリに手を出したくなる状況に追い込んでいるだけなのかもしれない。
政府の意向には従わないビリー・ホリデイだが、暴力を振るい、金を奪う男たちにはなんだかんだで従順なのは意外だった。生まれ育った環境のせいで、そういうものだと思い込んでいたのかもしれない。その誤解に気付かせるような捜査官とのベッドシーンは印象に残った。
主人公はそれほど政府と戦おうと息巻いているわけではなく、ただ好きに歌を歌いたいだけなのに、と戸惑っているように見える。彼女にしてみれば反体制だとか反権力といった意識はなく、何がダメなの?何で邪魔するの?と不思議だったのかもしれない。
実際、今なら反体制でも反権力でもないわけで、過剰反応した政府が間違っていたことになる。そもそもリンチを正当化できるわけがない。最近はやたらと権力や体制を擁護する人が多いが、彼らが間違えることなんていくらでもあるのだから、異議を唱えていくことは大事だ。
タイトル的にも彼女の伝記としてもやや焦点が曖昧で、全体像がぼんやりとしてしまっているきらいはある。だが主演のアンドラ・デイの熱演と歌唱シーンで十分満足できる映画だ。そして、ビリー・ホリデイは44歳で死んだのかと、その早すぎる死に驚いた。
スタッフ/キャスト
監督/製作 リー・ダニエルズ
脚本 スーザン=ロリ・パークス
原作 麻薬と人間 100年の物語: 薬物への認識を変える衝撃の真実
製作総指揮 ヨハン・ハリ/ジェレミー・アレン/マーク・ボンバック/カシアン・エルウィズ/パティ・ロング/パティ・ロング/ジョー・ロス/ヒラリー・ショー/デニス・ストラットン
出演 アンドラ・デイ/トレヴァンテ・ローズ/ナターシャ・リオン/ギャレット・ヘドランド/ロブ・モーガン/ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ/レスリー・ジョーダン
音楽 クリス・バワーズ
ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ - Wikipedia
登場する人物
ビリー・ホリデイ/タルーラ・バンクヘッド/レスター・ヤング/ジョン・レヴィ

