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「ザ・ブルード/怒りのメタファー」 1979

(字幕版)ザ・ブルード/怒りのメタファー

★★★☆☆

 

あらすじ

 心を病んだ妻がいる療養施設から帰ってきた幼い娘の体にあざがあることに気付き、虐待を疑う男。

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 デヴィッド・クローネンバーグ監督。原題は「The Brood」。カナダ映画。92分。

 

感想

 精神を病んだ妻を療養施設に預け、幼い娘を育てる男が主人公だ。妻に会いに行った娘の体にあざがあることに気付き、虐待を疑うことになる。しかし入院が必要な重い精神疾患の患者にも子どもと会う権利があるとは寛容だ。少し心配な気はするが、当人からすれば悪いことをしたわけでもないのだから当然ということか。

 

 主人公には妻を預かる療養施設に対する不信感がある。「サイコプラズミクス」という謎の療法を行い、治療に差し障るからと妻に会わせてくれない。指導者みたいな医師といい、どこか怪しげなカルト団体のような雰囲気を放っている。疑っているのなら他の施設に移ればいいのにと思うが、ここでも家族ではなく本人の意思が尊重されるのだろう。

 

 

 主人公の妻の心の闇を、医師がロールプレイング療法ですべて引き出す演出が面白い。彼が彼女の娘や父親を演じることで、たった一人でその内面をすべて明らかにしてしまっている。だらだらと説明したり、丁寧に描写する必要がないので効率的だ。また彼のマインド・コントロールを疑わせる仕掛けにもなっている。

 

 そして施設に探りを入れようとする主人公の周囲で、殺人事件が立て続けに起きる。てっきり主人公を妨害するための医師の差し金だと思っていたので、犯人が小さな子どもだったのは意表を突かれた。この凶暴な子どもはどこから出てきたのだ?と困惑してしまった。

 

 しかもただ凶暴なだけでなく、歯や性器がなくて、さらにヘソもないので普通の人間のように生まれたのでないと推測される異形の子どもだ。まったくもって気味が悪い。この子どもがあっさりと死んでしまったのは意外だったが、また新たに同じような子どもたちが再度登場したのも意外だった。

 

 子どもたちは教師を襲い、主人公の娘を連れ去る。意図が読めずますます不気味なのだが、娘も含めて彼らが来ている淡い色合いのレトロなスキーウエア風の防寒着は可愛らしかった。みな似たような格好で、フードまで被ってしまうと親ですらすぐには自分の子どもを見分けられなさそうだが、彼ら子供はみな同じであることを暗示してもいるのだろう。

 

 娘を探して主人公は、医師の元を訪ねる。これまで予想外のことばかりが起きていたが、ここでもさらに驚きの展開が待っていた。母親の体に恐ろしい変化が起きていることが判明する。彼女が生まれたばかりの赤ん坊を母親が舐めるシーンは背筋がゾクッとした。だがよく考えてみれば出産直後の猫などの動物がよくやっている事ではある。

 

 突飛な展開が続くが、振り返ってみればちゃんと筋も通っているし、伏線も張ってある。メタファーが散りばめられて深読みできそうな内容でもある。よく出来ているとは思うが、展開が想像を超えすぎていて理解が追いつかないところがあった。もっと段階を踏んで描いて欲しい気もするが、そうすると先が読めてつまらなくなりそうでもあるので難しい。このあたりは結局、相性が合うかどうかの問題になってくるのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 デヴィッド・クローネンバーグ

 

出演 オリヴァー・リード/サマンサ・エッガー/アート・ヒンデル/ナーラ・フィッツジェラルド/ヘンリー・ベックマン/スーザン・ホーガン/シンディー・ヒンズ

 

ザ・ブルード/怒りのメタファー - Wikipedia

 

 

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