★★★★☆
あらすじ
それぞれの視点から見た宇喜多直家。
感想
最初に、裏切り、毒殺、暗殺を繰り返した梟雄として知られる直家のイメージ通りの姿を描いておいて、そのイメージを揺らがせていく展開が秀逸。
戦いではなく、暗殺や謀殺で領地を拡大していく方法は、たしかにダーティなイメージしかないが、考えてみればこちらのほうが自軍にダメージが少なく、効率的な方法なのかもしれない。しかし、直家だけでなく、他の武将たちも同様に寝返りを繰り返し、互いに疑心暗鬼になっているこの地方の人間たちの描写を見ていると、太平の世を望む人々の気持ちが良く理解できる。戦国ものの時代劇でよく耳にするセリフだが、この小説ではそれがひしひしと伝わってくる。
この小説での直家の生い立ちや境遇を見ていると、最初からとんでもなく悪い奴なんていないのだろうな、という気になってくる。そうならないと生きていけない環境もある。
主人公が変わりながら直家周辺を描いていく連作短編小説で、それぞれの物語が見事につながっている。何気なく語られていたことが、最後に意味を持っていたことが分かり驚かされた。
中国地方のこの時代の話は教科書的な内容のことしか知らなかったので、面白く読めた。
著者
木下昌暉