★★★★☆
あらすじ
五大老の一人として、豊臣政権を支えた備前岡山藩主・宇喜多秀家の生涯。
感想
宇喜多秀家は、秀吉に可愛がられてお気楽に過ごしていたのかと思っていたのだが、お家騒動があったりして大変だったのか。しかも、隣国で大国の毛利家とそれを警戒する豊臣家の駆け引きに巻き込まれて、いつ押しつぶされてしまうかも分からない状況だった。
そんな厳しい状況の中で、幼少で藩主にならざるを得なかった秀家。タイミングが悪かったと言わざるを得ない。しかし、そんな中で秀吉のために必死に働き、存在感を示していく。
秀家自身、自分は優し過ぎて藩主に向いていないと自覚しているのだが、逆にそういう人物こそが、必死に努力し結果を出し続けることができるのかもしれない。ただ、その分悲壮感が漂って、精神的にはきつそうだ。
やがて秀吉が死に、徳川家康が不穏な動きを見せ始める。さらに前田利家がいなくなると、ひとり家康だけが世代が違うということになるのだろうか。若手ばかりの中で、彼らを上手く手玉にとる老獪な家康の姿をイメージすると、なかなか不気味だ。そう考えると家康は、好機が巡ってくるまで本当にひたすら爪を研いでじっと耐え忍んでいた、ということが伝わってくる。
そして、秀家にとって開戦と共に敗戦が決まったような関ケ原の合戦の描写は壮絶だった。西軍のまとまりのなさ、グダグダぶりには少し旧日本軍の姿を思い起こしてしまった。そんな壊滅状態の中で、藩主である秀家を必死に逃れさせようとする家臣の姿には胸が熱くなった。
でも、自身が率いる軍の人間がたくさん死んでいく中、自分だけは生き残ろうとするのは、人としてさすがに忍びないという気持ちは良く分かる。武将が敗戦を悟り、観念して自害するのはこれも大きいのだろう。生き残れば挽回するチャンスはあるのかもしれないが、惨状の中ではそこまで気が回らない。
無事逃れるも、最終的には八丈島に流罪となる秀家。自分の中では、妻の豪姫と共に慎ましくも穏やかな日々を過ごしたのだと思い込んでいたのだが、実際には豪姫はいなかったのか。妻と生き別れとなり、その後50年生きたというのは、想像するに切ない。
どことなく、秀家の父・宇喜多直家を描いた同じ著者による「宇喜多の捨て嫁」との関連も感じられて、2冊を通して読むとなかなか味わい深いものがある。
著者
木下昌輝
登場する人物
宇喜多秀家