★★★☆☆
内容
生産性を高めるための手法を語った本。
感想
生産性が高い人というのは、一つ一つの仕事をこなすスピードが早い人でも、人よりも多くの時間をがむしゃらに働いている人でもない。その時、その場所で最も重要な問題から取り組む人だ。
仕事で様々な問題が出てくるのは普通だが、見えてきた問題を片っ端から解決するのは効率的でなく、まずはその中で、どの問題を解決することが重要かを見極めることが大事だと説く。著者はこれを「イシュー」と呼ぶ。このイシューを解決することで、たくさんあった問題の中にはもう解決が必要ではなくなっているものもあるはずだ。
そしてイシューの解決方法も、手当たり次第に取り組むのではなく、まずは結論の仮説を立て、その仮説を証明するために必要なデータや論拠、その構成を考える。それらを終えたあとで、実際にデータを集めはじめ、最終的なアウトプットの形を作る。この方法で取り組めば、闇雲にデータを集めたりするムダもない。そして最終的なアウトプットに納得がいかなければ、何度もこの一連のサイクルを回すことでブラッシュアップしていく。
このサイクルは、手戻りしながら何度もやり直すよりも、ゼロからまたやり直すほうが時間がかからないので、各過程に時間をかけるよりも、何度も回すことを意識することが重要だ。
以上のように取り組むことで質の高いアウトプットを、高い生産性で行うことが出来る。この内容は説得力のあるメッセージを伝えることを主眼においているので、プレゼンする機会の多い人にはいいのかもしれない。とはいえ一人で完結する仕事なんてないので、誰もが必要な能力なのだろう。
もっとも重要な問題から取り組む、ゴールを定めて取り組む、という生産性向上の方法にはすごく納得したのだが、一方でどこかモヤモヤしたものが残るのは、「イシュー」を始めとする、登場するワードがピンときていないからかもしれない。
それから、仮説を立ててから取り組むというのも、悪用すれば恣意的に都合よく相手をコントロールすることもできてしまう。悪意がなくても、自らの仮説にこだわって誤った結論を出す可能性もある。そのあたりは、鵜呑みにして見抜けない相手にも問題があるし、結局いつかは自分にその報いがやって来るはずだからいいのか。この辺りは倫理や矜持の問題なのだろう。
著者
安宅和人
登場する作品
精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか (文春文庫)