★★★★☆
あらすじ
2015年・パリ行きの高速列車内で発生したテロ事件「タリス銃乱射事件」で、大惨事を未然に防いだアメリカの幼なじみ三人組の姿が描かれる。
事実を基にした映画。
感想
実際に起きたテロ事件を基にした物語だ。時間を使った切迫感のあるタイトルから、事件発生までの当日の列車内の様子を時系列に沿ってドキュメンタリー風に刻一刻と描いていくのかと想像していたので、最初に事件の始まりを匂わせた後、主役のアメリカ人三人組の小学生時代を描き始めたので意表を突かれてしまった。
だが小学校時代にこの三人が出会っていなければ、その十数年後に揃ってヨーロッパ旅行に出かけることはなく、したがってテロを防ぐこともなかったわけだから、とてつもなく重要なシーンではある。その後彼らがどのような経緯を経て、事件当日の列車に乗り込んだのかが描かれていく。
幼少期の彼らは優等生ではなく、むしろそれぞれが問題児だったからこそ絆を深め、友人となった。そしてその後も一人は空軍で落ちこぼれてしまっており、彼らは想像するようなヒーロー像とは程遠かったことが分かる。
そんな彼らが大人になり、三人でヨーロッパ旅行に出かける。イタリア、ドイツ、オランダなど各地を巡る様子はロードムービー的な面白さがあった。パーティで騒いだり、観光名所に行ったり、美女と出会ったりしながらも、その一部始終までは見せてくれないので若干消化不良気味ではあったが、それはこの映画の本題ではないから敢えて省略したのだろう。理解できる。
旅行の過程で描かれるのは、フィックスされていない自由な彼らの旅行日程に、パリ行きが加わることになる経緯だ。旅行中の三人の気分や出会った人々との会話を通じて、次第にパリ行きが固まっていく。
ただこれは三人の中でパリ行きの気分が高まっていったというわけではなく、元々行こうとしていたのにあまり皆の評判が良くないから取りやめる方向に傾いていたが、でもやっぱりせっかくだから行っておくか、となったもので、割と消極的な決定の仕方だった。パリ嫌われすぎだろ、と可笑しかった。めちゃくちゃディスられている。
パリの人はプライドが高いから観光客に冷たいのかもしれない。だがこの紆余曲折を経た決断がなければ、彼らがテロ事件に遭遇することはなく、多くの人の命を救うこともなかったわけだから不思議なものだ。
そして運命の電車で三人はテロに遭遇する。しかし、突然の予期せぬ出来事だったにもかかわらず、彼らの動きは素早かった。戸惑うことなくすぐに臨戦態勢となっていたのですごいなと感心してしまった。そもそも彼らのうち二人は軍人だからというのもあるのかなと思ったが、そうではない他の乗客の中にも即座に戦う人たちがいたので、日ごろのマインドの問題なのかもしれない。
迷うことなく立ち向かい、傷を負っても怯むことなく犯人を制圧する彼らの様子を見ていたら、あの問題児だった三人がこんなにも頼もしくなって…とまるで身内のように感慨深く、目頭が熱くなってしまった。落ちこぼれだったけど情熱はあったから、いつかはやってくれると信じていたよ、としたり顔で誰かに自慢したくなる。
映画としてはこれは彼らの運命だった、使命を果たした、としたい感じだったが、個人的にはただ偶然が重なっただけだろうと思う。でもこの奇跡のような偶然がこの事件で起きたのは幸運だった。もし彼らがいなければ乗客全員が殺されていてもおかしくないくらいの大惨劇になっていたはずだ。またひとつ別の偶然が重なればどうなっていたかも分からないような状況で、緊迫感があって見応えのある映画だった。
それから見終わった後に、メインの三人を実際の事件の当人たちが演じていたことを知って驚いてしまった。振り返ると確かに、存在感をアピールするような演技には多少物足りないものがあったかもしれないが、それ以外は普通に演技は上手かった。欧米の素人の演技の上手さは何なのだろう。彼らは日常から演技的に振る舞っているからなのだろうか。
スタッフ/キャスト
監督/製作
出演 アンソニー・サドラー/アレク・スカラトス/スペンサー・ストーン /ジュディ・グリア/ジェナ・フィッシャー/ P・J・バーン/トニー・ヘイル/トーマス・レノン
音楽 クリスチャン・ジェイコブ/トーマス・ニューマン