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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「誘惑」 1957

誘惑

★★★★☆

 

あらすじ

 妻に先立たれた洋品店主の男は店の2階で画廊を始め、芸術を志す一人娘はそこで仲間と共に個展を開こうとする。

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感想

 洋品店店主の父親とその娘、そして女性店員の、三人それぞれの恋愛がコミカルに描かれていく。画家を目指していた父親が始めた画廊を中心にした人間関係が描かれ、アートに関わる人が多いせいか、登場人物たちが皆、進歩的で軽やかなのが印象的だ。明るい雰囲気の中で繰り広げられるコメディシーンは今でも案外と笑えた。

 

 三人それぞれの恋愛はそんなにガッツリとは描かれないが、気が付けばいつの間にか当のお相手とくっついていた、みたいな自然な流れで進展していく。時々モノローグが挿入され、それぞれがなんでもないような顔をしながらも、心の中ではしっかりと相手を品定めしたりしているのが面白い。

 

 

 三人の中では女性店員のシンデレラストーリーのような恋愛が、ベタではあるが分かりやすくて良かった。最初は全く素っ気なかった女性が火をつけられて、エンジンがかかったかのように情熱的で積極的に変貌してしまった。そんなに分かりやすくていいのかと心配になるほどだった。

 

 そんな朗らかな恋愛と同時進行で、父親が未練を残す過去の女性との思い出も語られていく。このパートだけは他とは違って若干重い空気になるのだが、誰か殺されるのか?と緊張してしまうようなサスペンス感が急に出るのがなんか可笑しかった。これは意図したものではないのだろうが。

 

 やがて父親は、娘の仲間の中の一人が、未練を残す女性の娘であることを知る。そしてクライマックスで父親は、この娘に対して思いがけない行動を取ってしまう。自分にはホラーじみたショッキングな行為だったのだが、これがまるで文学的で美しいシーンかのように描かれていたので戸惑ってしまった。本人もいけない事だったと反省しているし、娘も経緯を理解した上で受け入れていたわけなので、辛うじてセーフ、ということなのだろうか。よく分からない。これが文学的だとは思わないが。

 

 踊る男女のシルエットが映し出されるオープニングのタイトルバックなど、随所に洒落た演出が見られる映画だ。構図や照明にもこだわりが感じられて、軽やかな内容と相まって、とてもモダンな雰囲気に満ちている。クライマックスが気になった以外は、あまり古い映画だと意識することなく普通に楽しめた。

 

 それから顔と名前が一致するのは岡本太郎だけだったが、その他にも東郷青児や勅使河原蒼風、徳大寺公英といった当時の一流の文化人たちが出演し、動いたり喋ったりする姿が見られたのも興味深かった。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 中平康

 

原作 誘惑 (1962年) (角川文庫)

 

出演 千田是也/左幸子/安井昌二/渡辺美佐子/小沢昭一/葉山良二/芦川いづみ/長岡輝子/波多野憲/武藤章生/中原早苗/高友子/杉幸彦/轟夕起子/二谷英明/宍戸錠/深見泰三/天本英世/初井言栄/殿山泰司/浜村純/東郷青児/勅使河原蒼風/徳大寺公英

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音楽 黛敏郎

 

撮影 山崎善弘

 

誘惑

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