BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「にっぽん昆虫記」 1963

にっぽん昆虫記

★★★☆☆

 

あらすじ

 大正時代に東北の貧しい村で生まれた女は、世間の荒波にもまれながらやがて東京で売春組織を取り仕切るようになる。

www.youtube.com

 

 キネマ旬報ベスト・ワン作品。

 

感想

 東北の村で生まれた女が主人公だ。序盤はこの村が舞台となるのだが、登場人物たちの話す東北弁がさっぱり分からず、かなり辛かった。主人公や父親が村の因習に振り回されているらしいことを、かろうじて聞き取れた会話の内容や村人たちの様子から推し量るしかなかった。

 

 古い時代の映画で方言が聞き取れないのはあるあるだが、当時の観客たちは普通に聞き取れていたのだろうか。今はどの地方の方言も標準語に近いマイルドなものに変化しているが、昔の人はもっとどぎつい方言を耳にすることが多かったはずだから耳慣れていたのかもしれない。

 

 そう考えると今我々が普通に聞き取れている関西弁などの方言も、50年後の人たちには何を言っているのかさっぱり分からない可能性もあるという事になる。なんだか面白い。

 

 不実な母と頭の弱い父のもと、恵まれない環境で育った主人公は、それでもまっとうに生きようとしている。だがいつも上手くいかない。地主の男に手籠めにされて子供を産み、働きに出た工場で恋仲になった男には捨てられる。さらにはその後知り合った女性に騙され、売春させられるようにまでなってしまった。これら不幸はすべて彼女が女であるが故で、ある意味で彼女は自身が女であることに翻弄されていたと言える。

 

 

 だが女であることに自覚的な売春宿で、彼女は学び、それをうまく使いこなせるようになった。そしてパトロンを得て、彼女自身が売春組織を仕切るようになる。この世界に引き込んだやり手ババアに悔し涙を見せていた彼女が、まったく同じ仕打ちを女たちにしていたのには苦笑してしまった。だがままある事ではある。

 

 女が生きていく上で必要なものは男と結局同じで、金とコネと出来れば異性なのだなとよく分かる物語だ。それを手にすることで社会で怯えることなく堂々と生きることができる。主人公が久々に居場所のなかった実家に戻った時、これまでにない強い態度を見せていたのが印象的だった。

 

 女が生きるのに必要なものを手にしようとしている時、それを邪魔するのはいつも男だ。できれば男が欲しいと願っている女の弱みにつけこみ、利用して裏切る。彼女の前に現れた男たちの中で、裏切ることがなかったのは父親だけだった。

 

 主人公の半生と共に大正末期から昭和までの移り変わる世相が要所要所で描かれていて、生まれた時とはすっかりと変わってしまった世の中を生きる主人公が、新しい世代の若い女たちに取って代わられてしまうのも無理はないなと納得してしまうような上手い演出だった。

 

 その新しい世代の代表である主人公の娘は、若くして女のしたたかさをすでに身に着けている。男の口車にのせられたように見せて逆に手玉に取ってしまう様子には清々しさがあった。こうやって世代を重ねながら女は強くなっていくのだなと感慨深かった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 今村昌平

 

脚本 長谷部慶次

 

出演 左幸子/岸輝子/佐々木すみ江/北村和夫/小池朝雄/北林谷栄/露口茂/長門裕之/春川ますみ/殿山泰司/高品格/久米明

 

音楽 黛敏郎

 

撮影 姫田真佐久

 

にっぽん昆虫記 - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com