★★★★☆
内容
日常生活でも活用できるコンピューター科学に使用されているアルゴリズムを紹介する。
感想
コンピューター科学に用いられている「最適停止」「探索と活用」「ベイズの法則」などで用いられるアルゴリズムや理論が詳しく紹介されている。内容は易しいとは言い難いが、極力数式などを用いないように工夫されていて難しすぎることはなく、程よい読み応えとなっている。巻末には出典や詳しい説明が載っているので、さらに詳しく知りたい人にも親切丁寧な本。
いくつか紹介されるアルゴリズムの中では、特にソートとキャッシュ、スケジューリングの話が面白かった。ソート(並び替え)は検索を容易にするためにあるので、検索が容易であれば敢えて並び替えないというのも選択肢の一つであるとか、データを一時保存するメモリには何を残しておくかは、野口悠紀雄の「「超」整理法」の手法が有効とか。
その他、あるアルゴリズムを用いた臨床試験の話も興味深い。臨床試験の途中でもその治療法が効果があるように思えるなら、より多くの患者がその治療を受けることができる方法。 通常は治療法を試す患者と試さない患者に半々に分けられて、試験が終わるまではその状態をキープする。そうすると試験の正当性を保つためだけに、治療法を試さないグループで患者が死亡してしまうことがあるかもしれない。医学の発展のためには仕方ない、ではなくて、そうならないように臨床試験を成立させながらも、なるべく多くの患者を死なせずに済む方法があるはずだ、と発想できることがすごい。
アルゴリズムを使って実際の生活に役立てていこうという趣旨の本ではあるが、こういう場合にはこうしろ、と明確に教えてくれるわけではなく、割とフワッとした指南しかない。だから、自分でそれをどう活用するか、よく考える必要がある。
おかしな話に聞こえるかもしれないが、コンピューター科学においては、計算とは悪いものだということが暗黙の原則となっている。すぐれたアルゴリズムの根底には必ず、思考の労力を最小限に抑えよという命令がある。
p430
ただあらゆるデータを取り込んであらゆる計算を行いながら動いているように見えるコンピューターも、実は完璧な計算を行って完璧な結果を返すのではなく、なるべく簡単な計算でより正解に近い答えをだそうとしているという意外な事実は、それらを考える上でよいヒントになるかもしれない。ましてや現実世界には白黒はっきりした答えなどなく、またそれが正解かどうかの答え合わせなど出来ないことの方が多い。そんな問題をじっくりと時間をかけて完璧な答えを出そうとするよりも、より正解の確率が高いと思える答えを選択し、迷いや躊躇なく自分を信じて全力でそれに取り組む方が良い人生を送れるということなんだろう。
著者
ブライアン・クリスチャン/トム・グリフィス
アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ブライアンクリスチャン,トムグリフィス,田沢恭子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/04/03
- メディア: 文庫
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登場する作品
「アル=ジャブル・ワル=ムカーバラ」 アル=フワーリズミー
The High Cost of Free Parking: Updated Edition (English Edition)
The Oligarchs: Wealth And Power In The New Russia (English Edition)
ティンカー・クリークのほとりで (シリーズ精神とランドスケープ)
ギンズバーグ詩集「吠える」
「アルファベット表」 ロバート・コードリー
The Art of Computer Programming Volume 1 Fundamental Algorithms Third Edition 日本語版 (アスキードワンゴ)
*「緋色の研究」
クラウド「超」仕事法 スマートフォンを制する者が、未来を制する
すべては「先送り」でうまくいく ――意思決定とタイミングの科学
「もしも―—―」 ラドヤード・キプリング
バートランド・ラッセル著作集〈第10〉人間の知識 (1960年)「人間の知識」
Introduction to Relaxation Methods
Discrete Relaxation Techniques (International Series of Monographs on Computer Science, 5)
数学のスーパースターたち―ウラムの自伝的回想 (1979年)
ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)
「The Zen of Python」
バーナード・ショー名作集「人と超人」
The Making of a Fly: The Genetics of Animal Design by Peter A. Lawrence(1992-04-15)
筑摩世界文学大系〈89〉サルトル (1977年)「出口なし」
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