★★★★☆
内容
脳の働きから見た運動の効用を説いた本。
感想
通常、脳と体は別物として考えがちだが、この本を読むとそうではなく互いに作用しているということがよく分かる。人類は狩猟や木の実の採集、はたまた生命を脅かす危機から逃走するなど、何かしら体を動かしたあと、そこから学ぶことで進化してきた。そう考えると運動後に学習機能が高まるというのは大いに納得できる。
本書はストレスやうつ、ADHD、依存症などの精神疾患に対して、運動が効果的であることを、様々な実験データを示しながら具体的に紹介していく。確かに精神疾患によって体の動きが鈍くなったりすることがあるなら、逆に体を動かすことで精神疾患を治すことができるような気がする。
運動により精神疾患に罹りにくくもなる。これは完全な偏見ではあるが、体育会系の人間には繊細さがなく、ガサツに思えるのもそういうことなのかな、と思ったりした。
・・・運動とはおもに、ニューロン新生を促すきっかけになるものだと考えている。彼らにとって運動は、ニューロン新生のプロセスを観察するための道具にすぎず、運動それ自体の研究には、まだ手をつける余裕がない。
p309
ただ様々な運動の効用が認められるにもかかわらず、科学者の関心があまりそれに向かっていないのが残念なところだ。これは製薬会社などの存在があるのかもしれない。運動をすれば病気は治ると言われても彼らは儲からない。もしかしたら、いつか飲んだだけで運動したのと同じ効果を持つ薬が開発されるのかもしれないが。
運動嫌いな人の多くは、皮肉なことに学校の体育の授業経験がその原因となっていたりするのだが、その問題解消の方法として本書で紹介されているアメリカのある地域で行われている体育プログラムの取り組みは大いに参考になる。誰かと比較するのではなく、自分自身のデータとの比較。自分にとってベストの運動ができているかが評価の対象であれば、運動神経の良し悪しでトラウマを抱えることなく、皆が頑張れる仕組みとなる。こういうのをどんどん学校で取り入れていくと良いのだが。自身のデータに基づいた運動をすることで、学校を出た後もそのまま運動を続けることができそうだ。
本書を読んでいると、どんどん運動のモチベーションが高まっていくのだが、一般的にどんな運動をすれば良いのかは、最終章まで待たなければいけないのがもどかしかった。とにかく出来ることから運動をやってみようという気にさせてくれる本だった。
著者
ジョン・J・レイティ/エリック・ヘイガーマン
脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方
- 作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2009/03/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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