★★★★☆
あらすじ
第2次大戦中のイタリアの島で、空軍爆撃隊に所属する主人公を取り巻く常軌を逸した日々。
感想
アメリカの映画や音楽などでよく聞く「キャッチ22」というスラングの元となった小説。試しにツイッターでこの言葉を検索してみると山のようにヒットして、いかに日常的に使われている言葉か知ることが出来る。
最初は小説のテイストがよく分からず戸惑う部分があったが、次第にああこれはコメディなんだなと気づいてきて、面白く読み進められるようになった。そしてときおり、はっとするような皮肉の効いた事も書かれている。
ある人々は生まれながらにして凡庸である。ある人々は凡庸さを自分で身につける。またある人々は凡庸さを無理やり押しつけられる。
上巻 p140(77年 文庫版)
基本的に主人公も含め登場人物たちがおかしくなっていて、おかしなことばかりが起きる。軍隊はおかしな論理で動き、その論理に振り回される部下たちもおかしくなる。誰にも会おうとしない上官や、上官を平気で殴る隊員などおかしな人物ばかりである。
そんな登場人物たちの中で一番好きだったのは、炊事係将校の男。良い食材を手に入れるという名目で各地に飛び、様々なものを売り買いして儲け、果てには各地で市長になったり、副総督や国王代理をするようになっている。彼の資本主義への情熱はとどまるところを知らず、敵との契約により自分の属する軍を爆撃までするメチャクチャさ。それでも、みなが一株ずつ持っている組織のため、という屁理屈で誰も咎めることが出来ない。
思わず笑ってしまうような荒唐無稽な人物ばかりなのだが、次第にこれらは戦争の狂気から来ていることに気づいてきて、無邪気に笑っていていいのか?と疑問を持ち始める。世の中には笑っちゃいけない人がいるが、彼らもそういった人たちと同じではないかと。時系列通りではなく、時間を行ったり来たりする物語の構成も、効果的なジョークのためでもあるが、彼らの混乱する精神状態を示すかのようでもある。
それでも彼らの戦中の過ごし方を見ていると、全然日本よりはマシだったと思ってしまうのが悲しいところではある。ふんぞり返って気に入らないことがあると部下を殴っていた当時の日本軍は次の文章の意味がわからなかっただろう。今の日本でも理解されないかもしれないが。
どういういきさつでそうなったか気がつかぬうちに、この大隊の戦闘員たちは、本来なら彼ら隊員一般に奉仕すべく任命されている管理職将校たちによって逆に支配されている現状を知った。
上巻 p140(77年 文庫版)
やがて仲間たちも戦死していき、物語は次第にシリアスさを増していく。この狂気の行きつくところは暗い結末かと覚悟していたが、思いの外の爽やかなエンディングが待ち受けていた。そしてシリアス一辺倒ではなく、最後まで笑いの精神も失われていなかったことにも好感が持てる。主人公の幸運を祈りたくなるような、清々しい読後感のラストだった。
作者
ジョセフ・ヘラー
登場する作品
Who Killed Cock Robin? コック ロビンを 殺したのはだれ?
ヒッポリュトス―パイドラーの恋 (岩波文庫 赤 106-1)
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