★★★★☆
内容
著者が心惹かれた6人の作家の短編小説を、一冊ずつ読み解いていく。
感想
長い間、この本は著者が気に入った短編小説をつらつらと紹介していくものだと思っていたのだが、実際は一冊ずつじっくりと味わい、読み解いていく内容だった。短編小説はあっけなく読み終わってしまうことが多いので、著者がどんな風に呼んで堪能しているのかがわかり、大いに参考になる。
「日本人はやっぱりタタミと梅干だよ」というところには簡単に行きたくない。僕はあらたな生活の場に自然発生的に登場した「日本的なるもの」を、自分本来のものとして手に取り、注意深く観察し考察することによって、今ここにある自分の視点をより切実なものとして深めたかっただけなのです。
単行本 p16
また読み方だけでなく、著者の小説の書き方についての考えも見えてくるのが興味深い。紹介する作品の文章や構成について、プロの書き手として感心している箇所があり、なるほどそういうところを意識しながら書いているのかと、いろいろと想像してしまう。
取り上げられているのは、いわゆる「第三の新人」と呼ばれる作家たちの作品だ。ここ数年で丸谷才一は読むようになったが、自分にとって彼らは、名前は知っているが教科書に太字で載るでも、現代の作家でもない、中途半端に昔の作家たちというイメージで、ほぼ読んだことがなかった。しかし、どの作家も著者の作品と相通じるところがあるようで、色々と手に取ってみたくなった。
それから、それまでいつも通り落ち着いた語り口だった著者が、最後の長谷川四郎の回で、妙に熱くなっていたのは印象的だった。この人ならもっと自分好みの面白い小説が書けたはずなのに、別の方向へ行ってしまった、ということだろうか。一人のファンとしての無念の叫びだろう。
結構難しいことを言っているはずなのに、すんなりと頭に入ってくる分かりやすい文章で、楽しく読める本だ。読みこむことの大切さを教えてくれる本でもある。
目次
まずじはじめに
吉行淳之介「水の畔り」
小島信夫「馬」
安岡章太郎「ガラスの靴」
庄野潤三「静物」
丸谷才一「樹影譚」
長谷川四郎「阿久正の話」
あとがき
付録 読書の手引き
著者

