★★★★☆
内容
リアル北斗の拳の世界とも言われるソマリアに、実際に訪れてみたルポ。
感想
正直、ソマリアは時々ニュースなどで見聞きするだけで、どんな国かなんて全然知らなかった。よくあるアフリカの内戦のように、人々が度重なる戦闘で疲弊しているんだろうな、ぐらいに思っていた。
しかし、この本を読むとその実情はまったく異なることがよく分かる。ある意味で安定している。実際に戦闘の行われている真っ只中に行ったわけではないので、すべての地域でそうというわけではないだろうが、少なくとも著者が訪れた場所は奇妙に安定している。インフラは破壊されておらず、モノも溢れていて不思議な光景だ。中央政府は無いに等しく、機能していないのに通貨が安定しているとか、面白い。
敵の様々な資源にダメージを与えてしまうと、勝利してその地を奪った後が大変だからと考えると納得もいく。そして、海賊や戦争自体がビジネスになってしまっているという事には闇を感じる。海賊との交渉で手数料を儲けたり、国連やジャーナリスト達が現地を移動する際の警護で金を稼いでいる。きっと平和になると困る人がたくさんいるのだろう。
そんな中でも、やはり特異な存在はソマリアの中で独立を宣言し、平和で安全な民主主義を維持する「ソマリランド」だ。警護もなく自由に歩き回ることができ、町中で銃を見ることもないという。敵対する者同士の憎しみの連鎖をどうやって断ち切ったのか。他の地域と何が違ったのか。
ちがう。戦争好きなのはソマリランドの人間。南部のやつらは戦争をしない。だから戦争のやめ方もわからない。
p119
ソマリランド人の言葉が示唆に富む。確かにヤクザのように沢山戦争をしている方が、手打ちの方法の前例がたくさんある。そしてそれだけでなく、強引に民主化を図った毀誉褒貶の激しい政治家がいたことも大きいようだ。物事を大きく変えるには、突出したリーダーの存在も必要不可欠なものなのかもしれない。
彼らの作り上げた民主主義は、独自の文化を取り入れながらも、合理的だ。理念は分かるが参議院って実際必要?と思ってしまう日本のシステムと比べても、見劣りしないかもしれない。そんなソマリランド人は、日本人とは真逆の、遊牧民ならではの自己主張の強い利己的な国民性だというから驚いてしまう。著者の言葉が心にしみる。
人間は自分の知っているシステムしか作ることができない。だから日本人が会社を作るとそれは村社会になり、ソマリ人は氏族社会になる。
p489
独立を認められず、世界から無視されながらも独自の民主主義を発展させるソマリランド。著者の言うように、世界は内戦に介入して混乱を深めるのではなく、紛争地帯に生まれた奇跡のようなこの国に投資や援助を行って豊かにし、周辺地域に戦争や海賊なんかよりも効率的に稼ぐ方法があることを示したほうがいいのではないかと思えてきた。紛争の解決を図るには、こっちの方が手っ取り早いような気がした。
著者
高野秀行
謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア (集英社文庫)
- 作者: 高野秀行
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/06/22
- メディア: 文庫
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登場する作品
アフリカ21世紀―内戦・越境・隔離の果てに (NHKスペシャルセレクション)
Becoming Somaliland (African Issues)
Understanding Somalia and Somaliland: Culture, History, Society (Columbia/Hurst)
Somalia, The New Barbary?: Piracy and Islam in the Horn of Africa
トラブル・イズ・マイ・ビジネス―チャンドラー短篇全集〈4〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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