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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「流」 2015

流 (講談社文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 中国内戦で敗れて台湾に逃れてきた祖父を中心とした一家で育った青年。直木賞受賞作。

 

感想

 70~80年代の台湾の若者の青春小説。この当時の日本と似たようなヤンキー的要素もありながら、そこに中国との関係や、国内の本省人と外省人という立場の違いといった台湾ならではの複雑な事情も絡めつつ描かれていく。当時の台湾の様子が詳しく描写されていて、それだけでも新鮮で興味深い。

 

 ところでこの時代のヤンキー文化的なものは、全世界的なものだったのだろうか。アメリカでもリーゼントに革ジャン、みたいなイメージがあるし、台湾でも同様だったとすると、この時代のある種の流行だったという事なのだろうか。今でもヤンキー文化的なものは残っているが、半笑いで見られるような時代遅れなものとなっている。いつの時代も若者は粋がりたいものだが、この時代はこういう形で粋がる事になっていたということか。

 

 

 主人公は中国の内戦で敗れ、台湾に逃れてきた祖父をルーツに持つ台湾人。祖父もその子供である両親たちもまだ戦争を経験した世代だ。世の多くの人が戦争体験を持ち、何気なく戦争の思い出話をしたりする世界というのは、うまく想像できない。人を殺したり身内を殺された経験を持つ者たちが、まわりに溢れている世界。そんな時代を生きる若者たちの喧嘩や恋、将来への不安などが描かれていく。

 

 読んでいて一番印象的だったのは、彼らが身内を大事にすることだ。血のつながった家族だけでなく、友人や兄弟分、さらには兄弟分の兄弟分まで必死に守ろうとする。経済的な理由もあるのだろうが、殺してやるなどと物騒な言葉を口にしながらも、主人公たちが祖父を中心に一族で寄り添って暮らしているのは微笑ましかった。目上の人たちにちゃんと敬意を示すのもいい。このあたりは中国人の特徴なのだろう。

 

 一家の中心だった祖父が何者かに殺され、それがこの物語の核となっているのだが、その真相や結末がついに明らかになった時、正直、うまく理解できないというか、受け入れられない気持ちが強かった。ただ、そんな簡単に他人が理解できることではないのだという事は理解できた。

 

 主人公が過去を回想するという形で、時系列に沿ってその人生が描かれていくのだが、時おり、ある出来事に対するその後に起きたこともついでに語られたりもする。だからエンディングはその後に起きる悲しい出来事も分かっている状態で迎える事になる。それなのにこの上ないハッピーエンドになっていて、何ともいえない含蓄のあるラストに、すごいなと感心してしまった。この先に何があろうと、まずやるべきは今を大切に生きることだ。

 

著者

東山彰良 

 

流 (講談社文庫)

流 (講談社文庫)

  • 作者:東山彰良
  • 発売日: 2017/07/14
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

三国志演義 1 (角川ソフィア文庫)

【合本版】水滸伝(全19冊+1) (集英社文庫)

「我的家在大陸」

叫我如何不想他

ドーベルマン・ギャング [DVD]

Desperado (2013 Remaster)

聊斎志異〈上〉 (岩波文庫)

論語 (岩波文庫)

朧月夜

「青と黒」 王藍

「星、月、太陽」 徐速

「彼岸」

セカンド・ラブ

 

 

 

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