★★★★☆
あらすじ
戦時中に捕虜に対して行われた人体実験。
感想
状況に流された者、自身の感情の変化を観察することに興味を覚えた者、一種の復讐のつもりで応じた者、人体実験に関わった人間たちの内情は様々だ。ただ彼らに共通しているのは、それを行うこと自体は仕方がないという、事態に流されていく感覚だ。ある意味、達観していると言ってもいい。ドイツ人の女性が迷惑そうな目も気にしないで行動し、言われるがままに処置を施そうとする看護婦に毅然と非難するのとは対照的だ。
あの時は仕方なかった、流れに身を任せるしかなかったと当然のように思い、その後の人生を生きていく。そこには後悔や反省はなく、総括することによって今後の教訓にすることもない。同じような事態が起これば、またきっと同じように流れに身を委ねてしまうのだろう。
一見何の関わりもなさそうな始まりから、人体実験の話へと展開されていく、物語の構成と進行が見事。ただ、ラストに少し物足りない感がある。もう少し、その後の話も読みたかった。
あまり物語とは関係ないが、序盤の、郊外に引越した登場人物の個人情報の漏れ具合にちょっと怖さを感じた。話もしたことがない他人に、引っ越して間もないだろうとか、奥さん妊娠してるだろうとか言われるなんて。田舎だし娯楽もないしということで、よそ者を遠くからずっと観察していたのだろうが。
著者
遠藤周作
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