★★★★☆
あらすじ
自殺をほのめかして去った恋人を捜すために、男はある宗教団体を訪ねる。
感想
前半に出てくる教祖の話は、宗教から心理学、宇宙理論まで取り入れられ、小難しくはあるが、なかなか面白い。全てに納得できるわけではないが、もしかしたらそうなのかもしれないと思わせるものがある。非科学的なものも、ただ現在の科学では説明できないというだけのことなのかもしれない。そう思わせることで高学歴の人とかも騙されて入信していったのだろう。
過去に囚われる人や、自分の人生を肯定できない人にとっては、自分を委ねられる大きな存在というのは心地よいものだ。駄目な自分の意志なんて放棄して、大きな存在の指示に従い、そのために働くことは、充実感もあり自己肯定感もあり、自尊心を満足させてくれる。自分を委ねられる大きな存在というのは、宗教に限った話ではなく、様々な組織であったり国家であったりする。今の時代、人々はそれが自分の前に現れることを期待しているのかもしれない。
著者はこの本の中で結構踏み込んだことを登場人物たちに語らせている。ネットなどで無償で善意でせっせと誰かの片棒を担いでいる人たちは、登場人物たちの言葉で、自分たちが利用されていることに気づいたらどういう反応をするのだろう。見なかったこと、気づかなかったことにしてしまいそうだが。
誰かに委ねるのではなく、自分の人生は自分の足で歩んでいこうというメッセージだ。
著者
中村文則
登場する作品
コラール「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」BWV639