★★★★☆
内容
多くの人にとってはどんな人がいて何をやっているのか、まったく想像もできない東京藝大の実態を探る。
感想
芸大には変なことをやる突き抜けた人達がいるので、そんな人達を取材した内容かと思ったらそうではなく、芸大の様々な学科に通う人たちを丁寧に取材するという内容だった。
おかげで突き抜けた変人ばかりというのは極端な偏見で、思っていたよりも普通というか、自分が学んでいることに真摯に取り組んでいるだけ、ということが良くわかった。変な人はごく一部だ。「ブラジャー・ウーマン」みたいな変な人の話も、もっと読みたかった気はするが。
この変な人も、変でしょ、変わってるでしょ、というアピールをしているわけでもなく、話を聞いてみれば至って真面目に受け答えしているのが印象的。だからこそ本物感が出てくるわけだが。
芸大の中でも美術学部と音楽学部で雰囲気が違うっていうのも興味深い。確かに音楽の場合は同じ曲を演奏して一番を決めるという競争もあり、演奏者としての自分の見せ方も大事となってくる等、作品の個性で勝負する美術とは異なる。
声楽が一番チャラい人間が多い理由とか、演奏するには何故楽譜を見るだけでなく、その曲が作られた時代や背景なども知る必要があるのかとか、へーとなるような面白い話が次々と出てくる。
芸大を出ても必ずしもプロになれるわけでもなく、その後の生活が保証されるわけでもないが、それでもここに通うメリットは環境だろう。芸術について真剣に考える人達が集まり、互いに刺激を与えあい、制作のための設備も備わっている。ここ以外にそんな場所なんてどこにもない。何年かに一人天才が出ればいい、その他はその天才の礎、という大学側の考えも残酷だが理解できる。そして皆が自分がその天才なんだと信じて頑張っている。何より皆楽しそうで、充実してそうなのが良い。
著者
二宮敦人
登場する作品