★★★☆☆
内容
日本海側、裏日本の魅力について、文学や歌、祭りなど様々な観点から、著者が語る。
感想
序盤は「裏日本」という言葉で変な刺激を与えやしないかと、少し及び腰でクドいくらい繰り返し悪い意味じゃないですよ、と念を押しているのが少し面白い。最近は全文を読まずに文句を言ってくる人が多いからだろうか。
この調子で最後まで行かれると流石にしんどいし、しつこすぎて逆にやっぱり馬鹿にしてるのかと思ってしまいそうだが、途中から通常モードになっていて安心した。
著者が言わんとしている裏日本の魅力は良く分かる。日本海側を旅行すると、何だよこの光景、みたいな景色によく出会う。時間が止まっているのかと一瞬思ってしまうような昔の日本の光景がそのまま残っていたりして嬉しくなる。
しかも最近の観光地として整備されたような古い町並みというわけでなく、普通に意図せず残っている風景。 だから古い町並みの中に突然近代的な家が建っていたりする。きっとそこにいる人達にとっては何が良いのだかさっぱり理解できないだろう。そしてグローバリゼーションの中で、少しずつどこにでもあるような景色に変わっていこうとする。旅人としては寂しい限りだが、そこにいる人にとってはそんなものより便利な方が良いに違いない。
文学や観光、宗教や演歌などを通して、裏日本の魅力が語られていく。個人的に面白かったのは、顔を隠して盆踊りなどをする祭りの話。西洋の仮面舞踏会の話などを聞くと、何が面白いんだ、と思ってしまっていたが、日本でも同じようなことをしている。
が、いずれにしても東北の日本海側地方の人々は、農作業の時に顔を覆った経験から、「顔を隠す時の開放感」を知っていたように思うのです。顔を隠し、誰でもなくなった時の自由さを、彼らは短い夏の夜の祭りで、思いきり味わおうとしたのではないしょうか。
単行本 p114
言われてみれば、そういう匿名の開放感というのは分かるような気がした。今のネット空間で悪口雑言が飛び交っているのも、きっと同じ心理だ。現代は毎日がハレの日になってしまっているということか。
著者が挙げるような様々な裏日本の魅力は、表日本との時差のようなものから来ていることが多い。ただこの事は、観光で食べていかなければいけない、これからの時代にとっては有利に働くかもしれない。均一化してしまっている表日本と違い、裏日本のまだまだ色濃く残る地域の独自性を守り、活かすことで、外国人観光客たちに「今、裏日本が熱い」と言わせることが出来るかもしれない。
余談だし、本当はわざわざ波風を立てる必要はないとは思うのだが、個人的には九州の裏日本は東側だと思っている。九州を旅行した時にそう感じた。
著者
酒井順子
登場する作品
「日本海ブルース」 坂本冬美
裏日本ベスト12コース (1965年) (トラベル・シリーズ〈17〉)
「金島書」 世阿弥
月影ベイベ コミックセット (フラワーコミックスアルファ) [マーケットプレイスセット]
「文学者と郷土」 室生犀星
「自然と民謡に」 泉鏡花
「雨のゆうべ」 泉鏡花
「日本列島改造論」 田中角栄
美術は地域をひらく: 大地の芸術祭10の思想 Echigo-Tsumari Art Triennale Concept Book